東京出入国在留管理局長 さま
出入国在留管理庁長官 さま
被収容者にシェーバーの使い回しをさせている東京入管等への抗議
東京入管が、被収容者に貸与する電気シェーバーを、伝染病の予防のための適正な消毒をしないで使い回しさせていることを、当団体は確認しました。
カミソリなど血液が付着する器具の使い回しには、B型肝炎をはじめとする伝染病を拡げる危険性があります。
被収容者の衛生に留意する義務を負うはずの入管収容所等の長が、この危険性を無視していいはずがありません。
いますぐ未消毒の電気シェーバーの使い回しをやめさせてください。
東京入管が電気シェーバーを適正に消毒していないこと
東京入管は、被収容者が電気シェーバー以外のかみそりを使用することを禁じています。
高価な電気シェーバーを購入できない被収容者にたいして、現在、東京入管は電気シェーバーを貸与しています(他の収容施設も同様と思われます)。
きちんと消毒はされているのか? 被収容者からは、いちおう消毒はされているようだが汚い、という証言を聞いたことがあります。
しかし今回、貸与される電気シェーバーが適正に消毒されていないおそれが非常に高いことが分かりました。
2017年11月の東京入管「物品取得通知書」によれば(※1)「入国管理収容用品」として、パナソニック製のシェーバー40個、シェーバー替刃10個、シェーバー用洗浄剤50個が購入されています。
この「洗浄剤 C-521」はその名のとおり洗浄剤で、消毒液ではありません(下に参考写真あり)。
東京入管の物品取得通知書
東京入管が購入したシェーバー洗浄剤
つまり2017年11月の電気シェーバー購入時点で、シェーバーの消毒のことを東京入管は考慮すらしていなかったということです。
それでも煮沸消毒はできるはずですが、煮沸がされているという被収容者の証言はきいたことがありません。
まず間違いなく現在にいたるまで、東京入管は、被収容者に貸与する電気シェーバー等の消毒をしていないと考えるべきでしょう。
シェーバーの使い回しをさせることは違法
被収容者は、安全カミソリ等を使って自由にひげ等をそることを入管に禁じられているので、高価な電気シェーバーを使用するしかなく、自弁で購入できなければ入管から借りるしかありません。
したがって、被収容者におけるシェーバー使い回しの責任が入管にあることは明らかです。
そうであれば、東京入管は被収容者の衛生を保つ義務を著しくおろそかにしているとも、またしたがって被収容者処遇規則29条に違反しているともいうべきです。
「人権を尊重しつつ、適正な処遇を行う」(1条)ことを目的とした
被収容者処遇規則は、29条で、入管収容所等の長は「被収容者の衛生に留意し、......清掃及び消毒を励行し、食器及び寝具等についても充分清潔を保持するように努めなければならない」と定めています。
「努めなければならない」とは、つまり被収容者の衛生を保つことは入管の義務です。
この著しい職務怠慢のせいで、現に被害者が出ています。
ご存じのとおり、先日、名古屋入管および大阪入管に収容されていた男性が、収容中にカミソリ使い回しのせいでB型肝炎に感染したとして、国賠訴訟を起こしました。
同様の被害者は、彼だけではないでしょう。
カミソリ使い回しで入管提訴の報道
適正な消毒とは
未消毒のシェーバーを使い回しさせてはならないのは当然ですが、それではどのように消毒するのが適正か。
同条は、カミソリやはさみなど皮膚や血液に接触する器具を複数名に使用する理容師にたいして、伝染病等予防の観点から、器具の消毒の方法を定めています(2000年9月1日が最新の改正)。
カミソリ等、肌にふれ、かつ血液が付着するおそれのある器具は、同条によれば次の三つの方法のどれかで消毒しなければなりません。
- 沸騰後二分間以上煮沸する方法
- 一定濃度のエタノール水溶液中に十分間以上浸す方法
- 一定濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に十分間以上浸す方法
なお、さまざまな地方自治体の保健担当部局が、同規則にもとづいて「理容所・美容所における消毒方法」をウェブサイト等で周知しています(以下は東京都豊島区ウェブサイト内のページ)。
「理容所・美容所における消毒方法」(豊島区ウェブサイト)
東京入管がおこなっている電気シェーバーの「洗浄」が、上記の方法のどれにも当てはまらないことは間違いないでしょう。
くわえて、シェーバーだけでなくバリカンも、肌にふれ血液がつくかもしれない器具ですが、バリカンも消毒せずに使い回しのはずです。
ほかの入管収容施設でも同じでしょう。
前述の国賠訴訟について、2月10日のNHK関西ニュースによれば(※2)「国側はカミソリは毎回洗浄するなど感染予防の措置を講じていると」主張しているとのこと。
しかし、すでに書いたとおり、カミソリの「洗浄」は消毒ではありません。
この主張からはむしろ、入管が被収容者の衛生にきちんと配慮していないことがよく分かります。
以上をふまえて、次のことを要求します。
- 東京入管局長に: 被収容者に電気シェーバー、電気バリカン等の使い回しをさせず、最低限、理容師法施行規則25条に定めた方法で消毒された電気シェーバー、電気バリカン等を貸与すること。
- 東京入管局長に: 被収容者にたいして、電気シェーバー等(私物であれ貸与品であれ)の使い回しにより伝染病が拡がる危険があることを、多言語で、じゅうぶんに周知すること。
- 入管庁長官に: 1と2の措置を、すべての入管収容所等の長に徹底指示すること。
2022年2月14日
SYI 収容者友人有志一同
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※1
この2017年11月の東京入管「物品取得通知書」写しは、上記訴訟の原告の支援をされている方からご提供いただきました。厚く御礼を申し上げます。
※2
NHK 関西ウェブ版
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20220210/2000057648.html(以下転載)
“入管施設で電気カミソリ使い回し B型肝炎感染” 国を提訴
2月10日 17時17分
10年前、入管施設に収容されていたパキスタン人の男性が、同じ部屋の人たちとカミソリを使い回したことが原因でB型肝炎に感染したと主張し、国に賠償を求める訴えを大阪地方裁判所に起こしました。
一方、国側はカミソリは毎回洗浄するなど感染予防の措置を講じているとしています。
訴えを起こしたのは、去年7月に「B型慢性肝炎」と診断された大阪に住むパキスタン人の40代の男性です。
訴状によりますと、男性は、10年前(平成24年)、名古屋市の入管施設と現在は閉鎖されている大阪・茨木市の西日本入国管理センターで、およそ8か月間、ほかの5人ほどと同じ部屋に収容され、消毒されていない電気カミソリやバリカンを使い回していたといいます。
男性は18年前、パキスタンを出国する際はB型肝炎ウイルスに感染していないと診断されていて、入管施設で行われた血液検査で初めて感染が判明したということで、施設での電気カミソリなどの使い回しが感染の原因だと主張し、国に対して1485万円の賠償を求めています。
男性は、通訳を介して、「部屋の番号が書いてあったカミソリを6人ほどで使っていました。肝炎で体が疲れやすく、薬を毎日飲んでいる」と話しています。
これについて、出入国在留管理庁はNHKの取材に対し、男性が収容されていた施設を含む全国の入管施設に対して、電気カミソリは使用のつど洗浄を行うなど感染予防の措置を講じるよう指示しているとしています。
(転載おわり)