カテゴリ:声明・情報・考察( 33 )

 

【記事紹介】難民虐待の東京入国管理局

9月4日の抗議行動の取材を含む、フリージャーナリスト志葉玲さんの記事が公開されています。ぜひお読みください。

独房に監禁、医療受けさせず死亡、腐った給食 難民虐待の東京入国管理局

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20170913-00075687

 9/13(水)

 戦争や人権侵害から必死の思いで逃れ、日本にたどり着いた難民達。彼らを受け入れる難民条約を批准しているにもかかわらず、日本は先進国中、最悪の「難民鎖国」だ。トランプ政権ですら今年度5万人の難民を受け入れ予定であるのに対し、ここ数年、日本が受け入れる難民は、年間で十数人程度にとどまり、過去最多1万人以上の申請があった昨年もたったの28人のみ。そして、難民不認定の烙印を押された人々は、日本から出て行くように言い渡され、入国管理局の収容施設に拘束されたり、時には迫害が待つ母国に強制送還される場合もある。

 今月4日、在日の難民やその支援者らが法務省・東京入国管理局(港区)の前でデモを行い、入管に収容されている難民の仮放免を訴えた。独房に数か月にわたって閉じ込めたり、命にもかかわる持病を持つ者を十分なケアもなく拘束しているのだという。

 (つづき



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by p-dragon | 2017-09-20 08:18 | 声明・情報・考察  

東京入管への抗議文書

第26回 東京入国管理局への抗議・収容者への激励アクションを、先ほど完了しました。集まってくれた皆さま、ありがとうございます。

くわしい活動報告は近日中に発表します。

以下、当局に提出した抗議申し入れ文書を公開いたします(ブログで読みやすいよう細かく改行しています)。
東京入管の総務課には、きちんと回答することを要求しています。


法務省入国管理局長 様
東京入国管理局長 様

入国管理行政とくに収容における人権侵害への抗議

 私たちは現行の入国管理行政、とくに収容における、人を人とも思わない諸措置に反対します。

 日本には、正規の在留資格なしに、または短期の不安定な資格のまま長く日本で暮らしている、多くの移住者や難民申請者がいます。
 こうした人々は、社会の実質的なメンバーであるにもかかわらず、健康保険などほとんどの社会サービスから排除され、基本的権利を保障されずにいます。
 こうした長期在留者にたいして、当局は在留を認め、ビザを出すべきです。
 難民についても、現在の不当に厳しい審査手続を抜本的に改め、もっと多くを受け入れねばなりません。
 難民条約締結国でありながら、一万人程度の難民申請者をすら受け入れないのは恥ずべきことです。

 しかしながら昨年から当局は、上述のような人々への管理と制限をむしろ強めています。
 職員がたびたび仮放免者の家を嗅ぎまわる。
 住所変更が遅い、無断で住所外の県に移動した、無断で仕事をした等の理由で仮放免者を再収容する。
 再収容のさい仮放免保証金の一部を没収する。
 長らく在留資格「特定活動」の難民申請者にたいして審査の進捗に関係なく資格を取り消す、等々。
 仮放免者の移動や就労を規制することは、基本的人権の侵害でしかありません。
 保証金の没収など、弱い立場の外国人からの搾取としか言いようがありません。

 収容環境も相変わらずひどいものです。
 収容施設は刑務所ではないのに、まるで刑務所のように起床から就寝までの生活時間が管理され、携帯電話を使わせないなど外部との通信を不当に制限しています。
 東京入管では、同施設の被収容者間での手紙のやりとりすら切手を買わせ、郵便扱いでやらせています。
 食事も、いまだに腐ったものが出てくることがあると聞いています。
 職員による被収容者のいじめ、嫌がらせも起きています。
 とくに東京入管の職員「B1072」が被収容者を「お前」呼ばわりし、怒鳴り、高圧的な態度をとることを、複数の被収容者たちが報告しています。
 今年6月中旬からは、収容施設内が全面禁煙になりました。
 当局は「受動喫煙の防止」を理由としていますが、それ以前に施設内の分煙は完全に行われており、全面禁煙の必要はなかったはずです。
 むしろ禁煙を強いられるストレスで精神的に憔悴している被収容者がいます。
 そもそも当局による収容こそが対象者の心と体の健康を蝕んでいるのであり、当局に他人の健康を云々する資格はありません。
 東日本入管センターで3月に、数日間も苦しみを訴え続けたにもかわらず職員に放置されたまま亡くなった被収容者の件は、記憶に新しいところです。

 東京入管処遇〔訂正: 違反審査〕部門職員の石井氏は8月14日、抗議団体との面会時に「入管は法律通りにやっている、正しい」と述べましたが、国家が権力を笠に着て弱い立場の外国人の権利を踏みにじり、あげくには命まで奪うことの、どこが「正しい」のでしょうか。
 むしろそれは、国内法を口実として、国際社会のすべての人間にたいする平和と友好の義務を、日本国家は無視すると宣言しているも同然ではないでしょうか。
 このようなやり方では、いずれ日本が世界の国々から見捨てられる日が来るでしょう。

 以上について入管当局に厳しく抗議するとともに、次のことを当局にたいして要求します。

1.すべての収容をやめること。すくなくとも再収容者、健康状態の悪化した被収容者から優先して解放し、また三ヶ月以上の収容は即時にやめること。

2.在留資格のない長期在留者に在留資格を出すこと。また難民審査の基準を少なくとも他の難民条約締結国なみに改善すること。

3.仮放免者に移動制限と就労禁止を課すのをやめること。

4.被収容者を暴力的に扱っている東京入管の職員「B1072」の名前と役職を公開すること。

5.収容施設の全面禁煙をやめ、以前の状態に戻すこと。

2017年9月4日
SYI(収容者友人有志一同)





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by p-dragon | 2017-09-04 18:32 | 声明・情報・考察  

入国管理局での内部調査について

今年3月末、東日本入管センター(茨城県牛久市)の被収容者が医療へのアクセスを当局に妨害されたまま死亡した事件について、現在、当会では、牛久入管元所長の免職を求めるキャンペーンを呼びかけています。
これについて、8月に法務省入管局に電話で問い合わせた結果、分かったことを報告します。

6月18日に当会主催の集会で決議され、20日に法務省入管局へ提出した抗議文では、以下の3点を要求しました(2017世界難民の日・集会+抗議行動の報告より)。


1.2017年3月25日、東日本入管センター7Bブロックにおけるグエンさんの死亡の経緯を調査、公表すること。

2.事件当時、東日本入管センターの責任者(所長)であった北村晃彦氏を懲戒免職とすること。

3.入国管理局の職務下において、対象者に死亡または心身の障害を引き起こすかもしれない一切の行為(収容を含む)をやめること。


法務省入管局総務課は、当会による電話での問い合わせにたいして、3月の被収容者の死について、数か月前から内部調査が行われていると回答しました(なお調査にかんする当局内での責任部局は警備課とのこと)。
8月16日時点で、調査はまだ継続中であるものの、そろそろ結論が出そうな段階にあるそうです。
ただし、調査結果を公表するかどうかは未定で、そのことも含めて検討中、とのことでした。

責任者の処罰については、調査結果について重く受け止め、社会的責任を果たすつもりだが、人事については公表しない方針である、という説明がされました。

以上の回答については、いつものように責任をぼやかした対応だな、という印象を受けます。
ともあれ、内部調査はもうすぐ終わるようです。
当会としては、時期を見計らって調査状況をまた確認し、その結果に応じてさらなる対応を考えるつもりです。

今からでも、ぜひ入管当局に抗議の声を届けてください!
宛先など詳しい情報については、当会記事「牛久入管元所長の免職を求めるキャンペーン」まで。




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by p-dragon | 2017-08-27 21:10 | 声明・情報・考察  

牛久入管でのベトナム人収容者の死亡事件にかんする抗議

以下は、3月25日に報道されたベトナム人収容者グエン(NGUYEN THE HUAN)さんの死亡事件を受けた、入管当局にたいする当会の抗議声明です。

あわせて 【転載】 牛久入管内からの声 ベトナム人収容者の死について もお読みください。

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​​​法務大臣 様
法務省入国管理局長 様
東日本入国管理センター所長 様

被収容者の死亡事件にかんする抗議申し入れ

 われわれSYI(収容者友人有志一同)は、入国管理局の被収容者の人権を擁護する団体として、本年3月24日に東日本入国管理センター(牛久収容所)内でベトナム国籍の被収容者が亡くなった件について、強く抗議します。

 当会が被収容者や他の支援団体からの情報で知ったところでは、本件の経緯は以下のとおりです。牛久収容所7Bブロックに収容されていたベトナム国籍のグエンさんは、3月24日夕方、居室に戻ったあと、19時頃には居室が静かになり、22時に灰皿を回収にきた職員が異常を察知して、15分後に居室で倒れているグエンさんを発見、AEDを実施。翌25日午前1時には救急隊が到着し応急処置をするも、すでに死亡していることが確認されました。彼の死因は「左椎骨動脈破裂によるくも膜下出血」だと後に判明しています(ロイター4月3日)。

 グエンさんは牛久への移送(3月10日頃)後、当初から体(とくに背中、首、胸)の強い痛みを訴えていましたが、職員は対応を拒絶し、彼を単独房に移すだけで放置しました。22日は同ブロックの被収容者までもが彼を医者に見せるよう要求しましたが、収容所内の医師は痛み止めと湿布を出すだけ。食事すら満足にとれない状態だったのに、おかゆを出してほしいという彼の願いすら職員は聞き入れませんでした。

 以上の経緯から分かるのは、グエンさんの明らかな容態悪化を当局が無視しつづけた結果、彼の尊い命が失われたということです。彼が収容されていなければ、または、もっと早く適切な医療機関に移送されていれば、おそらく命までは失わずに済んだでしょう。ところが東日本入管センター所長(北村晃彦氏)は26日、取材にたいして「現時点で処遇に問題はなかったと考えている」と回答しています。ビザのない外国人の命は粗末に扱っても構わないと考えているのでしょうか。そのような組織が税金で運営される公的機関であるのは、まったく許しがたいことであり、この国のありかたにかかわる問題です。

 したがって、わたしたちは以下を法務省入国管理局に要求します。

1.グエンさん死亡の経緯について調査し、公表すること。

2.牛久収容所の現センター長、北村晃彦氏をはじめ、グエンさんの訴えを無視したことに責任のある職員を処罰すること。

3.入管収容施設の医療環境を改善し、また外部診療の手続を柔軟化すること。

4.ビザのない外国籍者の収容をやめること。少なくとも、収容に明確な期限を設け、また期限内でも健康状態の悪化する被収容者はただちに解放すること。

2017年4月5日
SYI(収容者友人有志一同)

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by p-dragon | 2017-04-06 10:30 | 声明・情報・考察  

【速報】入管収容のベトナム人死亡 東日本センター

報道によれば、また入管収容施設で尊い人命が失われてしまいました。
事実関係を確認、調査します。

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入管収容のベトナム人死亡 東日本センター
産経ニュース 2017.3.25
http://www.sankei.com/affairs/news/170325/afr1703250031-n1.html

 東日本入国管理センター(茨城県牛久市)は25日、収容中の40代のベトナム人男性が意識不明となり、救急搬送先の病院で死亡したと発表した。司法解剖して死因を調べる。
 同センターによると、同日午前1時ごろ、巡回中の職員が、施設内の部屋に1人で寝ていた男性が動かないことに気付いた。声を掛けたが応じず意識が無かったため、119番通報した。同日午前2時20分ごろ、死亡が確認されたという。

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by p-dragon | 2017-03-26 12:26 | 声明・情報・考察  

難民を脅威と見なす難民研究者 墓田桂『難民問題』の批判的検討(1)

難民を脅威と見なす難民研究者
――墓田桂『難民問題』の批判的検討(1)


目次へ)

墓田は難民が受入国を脅かすと主張している。しかしそれは中立的、客観的な調査をつうじた結論ではなく、人の移動それ自体が国家への侵害だという先入観から、現実の一部だけを切り取って、不当に誇張することにより支えられた意見である。このような意見は、結局のところ極右の移民排斥論を補強するものだ。それは道徳的に問題であるだけでなく、難民問題の根本的な解決にも決してならない。


 墓田の議論の特徴は、難民政策において国家が認識すべきとされる「善意の限界」を強調する点にある。「社会の安寧や限られた財源といった問題を考えるとき、国民が示せる善意には限界がある」(223頁)。たしかに難民保護の意欲と能力とは別であり、そして受入国の財政能力は無限ではないだろう。それだけでなく、無差別攻撃や人身取引などに関与する越境者や、生活習慣や規範をめぐる移住者と市民との摩擦といった、対処すべき課題が生じるのも事実だ。しかし、次の点には注意しなければならない。受入国がこうむる負担を、越境者の保護に付随する課題と考えるのか、それとも、越境者によってもたらされる災難と見なすのか。これらは必ずしも同じことではない。そして墓田にとっては、人の移動それ自体が国家にたいする一種の侵害行為であるようだ。彼いわく、現代は「越境する人が安全保障上の脅威となりうる時代である」(230頁)。

 なぜ「越境する人」を墓田は危険視するのか。彼が挙げるのは「混合移動」の問題、つまり「難民」と「移民」が混ざっていることである。もっとも彼は、難民が移住先での生活条件を考慮して目的地を選んではいけない(そうする者はニセ難民だ)と言っているわけではなく、「同一人物が難民性と移民性を併せ持つ」ことを認めている。だが彼は、多種多様な越境者のなかに「シリア人になりすます」者や「戦争犯罪やテロとの接点をもつ非正規移動者」が紛れ込むことを問題視する。彼は「有象無象」という言葉まで使って、罪のない越境者と危険な越境者とを区別できないことを強調している(90-92頁)。しかしながら、難民ではない者として、移民と「戦争犯罪やテロ」の関係者とを同列に扱うことは不当ではないか。「戦争犯罪やテロ」という名目において、越境者全体を一律に危険視することが許されていいのだろうか。

 だが実のところ「戦争犯罪やテロ」は主張な問題ではない。墓田にはどんなことでも、難民の群れが脅威であるという印象の材料にしかならないようだ。彼は「移動者が残したペットボトルや丸めた紙、毛布やコート」の散乱を挙げ、難民の通過地となった街や村が「深刻」な「喧噪や荒廃」に見舞われていると嘆く(106-107頁)。「荒廃」とは、まるで難民が畑を荒らすイナゴの大群のようだとでも言わんばかりだ。住み家を求めてさまよう人々には、指定されたゴミ捨て場もないということくらい想像がつかないのだろうか。帰る場所のない人たちに、ゴミの持ち帰りのマナーを説教すべきというのか。まったくもって良識的で立派な難民研究者である。

 それだけではない。墓田にとっては、難民を保護することは社会的公正に反することでもあるらしい。彼は2016年5月にギリシャを視察したようだが、その報告は、彼の学者としての能力とセンスを疑わせる記述に満ちている。いわく、アテネ中心部の高級住宅地だった地区は、いまや「街は荒廃し、今では南アジアの雰囲気の漂う移民街」になっているとのことだ(109頁)。ここでも彼は、移民・難民が「荒廃」の原因だと決めつけているが、土地価格の低下と欧州危機による経済停滞との関連性については思い至らなかったのだろうか。

 次のようなくだりもある。非正規上陸者の収容施設がある港では、別のところに「ギリシャ人の路上生活者」もいたが「難民支援に携わるNGOからは見放されたようだった」と感想を記している。すぐさま彼は「むろん非正規移動者はこれを理由に責められるべきではない」とつけ加えてもいる(110頁)。だがどんな言い訳をつけても、福祉の不足と難民保護とを結びつける言論は移民排斥論を助長するものでしかない。外国人排斥の共鳴者のなかに国の福祉削減に不満をもつ市民もいるということは、状況分析としては正しいだろう。だがそうだからといって、あたかも難民保護のせいで福祉がおろそかにされているかのように言うことはできない。福祉削減の要因は、市場の景気変動がもたらす圧力であり、市場競争を促そうとする政策転換である。雇用という点にかんしても、現在の先進諸国は国内に不足している労働力(いわゆる高度人材や、逆に市民に避けられがちな労働部門)を選別的に導入しているので、その道徳的な当否は別として、国内労働者と移民の競合という主張は正しくない。こうした点を無視するかぎり、移民や難民が福祉(あるいは雇用)を市民から奪うという排外主義者の常套句を補強することにしかならない。

 これまでの筆者の記事では、どれだけ移民や難民が安全を脅かされているか、それも出身国ではなく欧州の排除的な国境政策によっても脅かされているかを説明してきた。だがそのことを墓田は一切問題にしない。それどころか、軍事同盟であるNATOが「密航対策」の名目で地中海をわたる難民の監視・取締に適用されるという2016年2月の決定を、妥当な施策として紹介している(153-154頁)。

 要するに、墓田はすべてにおいて、難民は受入国にとって災難であり脅威であるという先入観に立ってものを見ており、この先入観に収まらない現実を切り捨てている。だからこそ彼はためらうことなく、難民は安全保障上の脅威だと断言できるのである。「国家の安全保障」、市民にとっての「人間の安全保障」、「経済の安全保障」、「環境の安全保障」など、受入国のあらゆる種類の安全を難民が脅かすと言うのである(133-134頁)。さらには「排斥」や「拒絶」は一概に不道徳な実践ではなく、入学試験で不合格者を排除するように「優れて人間的な営為」でもあると、問題を抽象化して開き直ってすらみせている(147頁)。学者風の専門用語がそう見えにくくさせているかもしれないが、墓田の議論は徹底して、移民排斥論を補強するものでしかない。


【補足】

 他方で、外国人により市民が傷つけられる事件が実際に発生することについては、以前の連載のなかで取り上げるつもりだったが、まだ触れていなかった。たとえその種の事件が実際に起きたとしても、移民や難民を一括りに脅威と見なすことは許容できない。これについて指摘すべき点は二つある。

 第一に、とくにいわゆるテロ事件(無差別攻撃)について言えることだが、それをまったくの外部から舞い込んできた災難として捉えることの不正確さ。2015年から2016年にかけて、フランス、ドイツ、ベルギーで無差別攻撃が起きたが、それらは2016年12月のベルリンでのトラック攻撃を除いて、欧州出身者が単独でか、グループの中心となって実行した事件だった。いわゆるホームグロウン・テロである。これはテロの要因が欧州内部にもあることを示している。そのことを深く考えずに、新規入国者を一概に危険視することは、まず状況認識として誤っている。

 またそもそも、欧州への攻撃を過激主義者が扇動するのも、中東やアフリカにたいする欧米諸国の干渉や戦争(過去のではなく、現在も継続中の)が理由であって、まったくいわれのない暴力ではない。過激主義者の行為がどれだけ残虐であるとしても、というより残虐であるほどに、グローバル化の中心にいる集団と周辺に追いやられている集団との力の不均衡を、象徴的に埋め合わせようとする、それは絶望的な復讐劇なのである。グローバルな不均衡と不平等の真の解決にむけた国際的な取り組みがはじまらないかぎり、人をテロリズムに共感させる回路を断つことはできない。テロリストにいくら恐怖と憎しみを募らせても、問題は解決しないのである。

 第二に、特定の事件を全体としての移民・難民に結びつけることの問題。いわゆるテロ事件の他にも、ドイツやスウェーデンでは、北アフリカ出身者の集団による女性への暴行・嫌がらせの事件や、難民申請者による強かんや殺人などが起きている。こうした事件は移民排斥の風潮をますます煽った。これについてまず言うべきは、犯罪を法的に裁かねばならないからといって、特定の出身地や人種などを犯罪に結びつけることは正当化できないということだ。だが今日では、排斥論者はあからさまな人種的偏見よりも、政府が外国人から市民を守れなかったという失態を強調するだろう(墓田もこのスタンスだ)。この論点には、確信犯的な人種差別論者でない人にも受け入れられやすい。

 たしかに結果論として、こうした罪を犯した人々が入国していなければ、事件は起きなかったのだろう。だがそうしなかったのが問題だとしても、誰が一般犯罪を犯すかを入国前に判別することなどできないのだから、外国人の犯罪が嫌なら、国境を完全にシャットアウトするしかない。だが国や政府の責任については別の考え方もある。新たな移住者とのあいだに、同じ社会にくらす隣人としての連帯意識を少しでも共有することができていれば、やはりこうした事件は生じなかったかもしれない。ところが、現在の欧州諸国が実際にとっている政策は、それとは正反対である。新来の移住者どころか、古くからの移民やその子孫(国によっては、移民ではなく市民である人々)すら、社会の異物として扱われがちである。この問題については、次節で詳しく触れる。

(次の記事へ)

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by p-dragon | 2017-03-22 18:14 | 声明・情報・考察  

墓田桂『難民問題』の批判的検討 (はじめに・目次)

墓田桂『難民問題』の批判的検討

柏崎正憲


《目次》
はじめに
1.難民を脅威と見なす難民研究者


はじめに

 欧州難民問題にかんする解説の続きとして、ヨーロッパ社会の移民排斥の動向について書くつもりでいたが、そのかわりに、昨年夏に公刊された墓田桂『難民問題』(中央公論新社、2016年9月)を批判的に検討したい。墓田は国内避難民の研究者で、仏のナンシー第二大学で公法学の博士号をとり、現在は成蹊大学教授。そのような人物が昨今の難民問題を解説するのは適任に見える。だがその内容は、率直に言って「この人物に難民研究者として語る資格があるのか」と疑いたくなるほど酷いものだった。難民問題には理想主義ではなく現実主義で対処すべきだと、墓田は主張している。現実主義というのは、受入国が自国内での難民保護を制限すべきということを意味する。難民条約からの脱退すら、彼は一つの選択肢として提唱している(230頁)。

 むしろ墓田こそが、ある種の現実を軽視あるいは無視しているのではないか。彼が軽視している現実とは、移民や難民が「国益」の手段ではなく、権利と尊厳と血のかよった身体をもつ人格であるということだ。そして彼がまったく無視している現実とは、近年の「難民危機」に先立って振るわれてきた、世界の「南」に属する人々への直接的な暴力や間接的な圧力であり、しかもそうした暴力・圧力の全てではないにせよ大きな部分が、「北」に属する豊かな国々から生じているということに他ならない。墓田の「現実主義」は、これらの現実を考慮しないという非現実的(あるいは反現実的)な態度を決め込むことでしか成立しえないものだと言える。

 とはいえ、墓田の著作を取り上げることには、それなりの利点もある。彼の著作は、現在はびこっている移民・難民への恐怖、警戒、敵意を、極右や排外主義とは異なる語り口で、ある意味では巧みに表現しているからだ。彼の主張は、移民が国益に貢献するという論法では覆せないだろうし、難民擁護論にありがちな抽象的な人道主義だけで対抗することも難しいだろう。越境者を「危険」や「脅威」に結びつける言説に抗うには、移民や難民の主体的行為としての越境を、権利として擁護しなければならないだろう。

次の記事へ)

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by p-dragon | 2017-03-22 18:07 | 声明・情報・考察  

タイなどへのチャーター機強制送還

21日、入管局がチャーター機による一斉強制送還をおこないました。

先日のパネル展でも指摘しましたが、在留資格がないとしても、長く滞在している外国人は社会の実質的メンバーです。非正規滞在ではなく、そうした人々を監禁、追放し、生活基盤から暴力的に引きはがすほうが、計り知れないほど罪深いことです。

どうかこれが当然の政策だと思わないでください。市民の税金により国家の名のもとで実行されている人権蹂躙を、許容しないでください。

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http://jp.reuters.com/article/idJP2017022101002069

入管、タイ人ら43人を強制送還
ロイター通信(日本語版) 2017年2月21日

 法務省入国管理局は21日、不法入国や不法残留のタイ人32人、ベトナム人10人、アフガニスタン人1人の計43人を20日に民間のチャーター機で強制送還したと発表した。2~61歳の男女で、訴訟中や難民申請中の人は含まれない。滞在期間は最長で25年9カ月だった。

 入管によると、チャーター機での一斉送還は強制退去が決まっても拒否している人が対象。2013年から実施しており、今回が6回目。昨年9月にはスリランカ人30人を強制送還した。


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by p-dragon | 2017-02-23 23:24 | 声明・情報・考察  

欧州難民問題について: 難民危機の治安問題化

目次へ)

2.難民危機の治安問題化

※ 2017.3.22 一部修正。

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Lampedusa Detention Center (Photo by UNHCR)


 2011年、チュニジアのベン・アリ政権やリビアのカダフィ政権が覆された(リビアの体制は、未熟な反体制派というよりも、それを支援すると称する欧米の大規模な軍事介入によって破壊されたのだが)。これらの欧州が「独裁」と非難する政権は、前記事で述べたとおり、イタリアとの協定をつうじて、国境管理におけるEUのパートナーとなり、地中海を「民主的」な欧州へと渡ろうとする人びとを、北アフリカ側で取り締まっていたのである。それゆえに2011年、これらの国で体制が転覆されると、地中海ルートの移民・難民が急増した。同年のうちに、イタリアの非正規滞在者数は5万6000人に到達、また地中海での死者も1000人以上を数えた(▼1)。

 地中海での死者については、2013年10月、イタリア・ランペドゥーサ島沖での二隻の難民船沈没(約400名死亡)や、2015年4月19日のリビア沖での事故(800名以上が死亡)が、とくに大きく報道されたが、それ以外にも難民船の沈没や船上での死亡はしばしば起こっている。Missing Migrants Project調べでは、2014年の地中海での死者数は3,184名、2015年は3,463名、そして2016年は10月末の時点ですでに4,220名となっている。なお地中海経由の移民・難民の総数は、2015年が約101万人にのぼったのにたいして、今年は約34万人と、前年比で約4割にまで減少している(▼2)。それにもかかわらず、死者数がすでに昨年をこえているということは、地中海における反移民政策がますます厳格・冷徹に展開されていることを窺わせる。

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イタリア・ランペドゥーザ島の位置(▼3)

 陸路としては、トルコからギリシャに入ったあと、バルカン半島諸国を通過するルートが活用されてきた。2015年夏に急増した難民の大半は、このルートから来ていると言われている。2015年6月、ギリシャの北に位置するマケドニアが非正規入国者にたいする制限を弛め、短期間の滞在・国内移動を合法化した。そのため、移民・難民がバルカン・ルートを、安全面のみならず費用面からも選びやすくなったのだと指摘されている(▼4)。陸路においても命の危険はある。とくに大きく報道されたのは、2015年8月オーストリアの高速道路で、ブローカーの手配したトラックの荷台にすし詰めにされた71人のシリア難民の死体が見つかった事件である(▼5)。また、欧州にたどり着く以前の国境越えにおいても危険はあちこちに転がっている。トルコ国境に埋まっている地雷、北アフリカの砂漠地帯などである。たとえば2014年9月、シリア・トルコ国境で地雷を踏んで片足を失った少年のことが報道されているが(▼6)、それも数ある同様の悲劇の一例にすぎない。

 越境の途上における死者が増えるにつれ、欧州難民問題は人道的危機として、欧州の政策決定者たちにも無視できなくなったことはたしかだ。しかしながら過去2年弱のあいだに、難民への対応は治安政策へと急速にすり替えられている。

 2013年10月のランペドゥーサ島沖での事故を受けてイタリアは、地中海を渡る人々の救助を目的とした、海軍による作戦「われらが海」を開始する。だが、それもあまり長くは続かない。2014年11月、経済的負担の大きさを理由にイタリアは同作戦を終了し、EUの対外国境管理協力機関FRONTEX主導による合同作戦「トリトン」に移行。この新作戦においては、もはや人命救助は主目的とされなかった。その主眼は「国境警備の強化」と「密航業者の取り締まり」に置かれており、それにともない、海域上の活動範囲も大きく狭めらたのである(▼7)。さらに2015年4月には、上述のリビア沖事故を受けて、EU海軍部隊の主導による「ソフィア」作戦へと移行したが、作戦の眼目はいぜんとして密航取締であり、人命救助を主目的としたものではない(▼8)。2016年6月、同作戦の延長が決定され、さらには追加タスクとして、リビア沿岸警備隊および海軍への訓練供与が盛り込まれた(▼9)。

 陸路での難民についても、先に述べた2015年夏の寛容な対応は短いあいだに放棄された。すでに2012年には、ギリシャが対トルコ国境にフェンスを設置していたが、2015年以降、多くのバルカン・中欧諸国が国境にフェンスを張り巡らせることになる。2016年3月までに、マケドニア、ブルガリア、スロヴェニア、ハンガリー、オーストリアが、下図のとおり、バルカン・ルートに面する国境に有刺鉄線やカミソリつきのフェンスを設置した(▼10)。さらに6月には、クロアチアも対セルビア国境にフェンスを建設している(▼11)。

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バルカン・ルート: 赤線はフェンス設置地帯(▼10)

 難民の目的地となっている西・北欧諸国でも、欧州域内での自由移動を定めたシェンゲン協定にたいする例外的な措置として、入国管理の復活が進んでいる。2015年9月から翌年1月までに、ドイツ、オーストリア、スウェーデン、ノルウェー、デンマークが入国検査を復活させた。これらの国の措置は一時的なものとしてEUレベルで承認されており、最近では10月に、措置を延長する勧告が欧州委員会から出されている(▼12)。フランスは2015年11月のパリ同時多発テロ後、部分的に入国検査を復活させ、さらには2016年7月のニースでのテロ事件後、全面的に入国管理を再開している。ベルギーでも3月にテロが起きているが、それに先立つ2月、難民阻止のため対仏国境の管理を復活させている(▼13)。

 それでも難民危機の治安問題化は、いまだ途上にあるようだ。2016年2月には、軍事同盟であるNATOを「密航対策」の名目で地中海をわたる難民の監視・取締に適用することが決定された。3月にはトルコとEUのあいだで協定が結ばれ、それにもとづき4月、トルコから欧州に渡った移民・難民のトルコへの送還がはじまった。10月には「欧州国境沿岸警備機関」(FRONTEXからの改組・機能拡張)が発足した。その設置法案は、パリ同時多発テロ後の2015年12月に提出されていた。駐日欧州連合代表部はFAQで、密航対策にくわえてテロ対策を理由に掲げ、「域内国境なきEU」を回復するための重要な施策として、この機関の設置を意義づけている(▼14)。こうして、難民のなかから「テロリスト」を未然に把捉するためと称しながら越境者への制限がますます強化されていく。


後続記事 墓田桂『難民問題』の批判的検討へ)


【註】

▼1 S. ロジエール「現在おきているのは構造的な「対移民戦争」である」、森千香子/エレン・ルバイ編『国境政策のパラドクス』勁草書房、2014年、35-36頁

▼2 Missing Migrants Project, Infographics: Mediterranean Update, published on 04/11/2016, p. 1 (https://missingmigrants.iom.int/infographics).

▼3 北川眞也「ヨーロッパ・地中海を揺れ動くポストコロニアルな境界」20頁(http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/61236

▼4 L. Sly, 8 reasons Europe's refugee crisis is happening now, The Washington Post, 2015/09/18 (https://www.washingtonpost.com/news/worldviews/wp/2015/09/18/8-reasons-why-europes-refugee-crisis-is-happening-now).

▼5 「トラックから71遺体、シリア人か ハンガリーで4人拘束」、AFP日本語版、2015年8月29日(www.afpbb.com/articles/-/3058662

▼6 「国境は越えた 未来は見えない トルコのシリア難民たち」、毎日新聞、2016年11月5日(mainichi.jp/articles/20161105/dde/012/030/004000c

▼7  Amnesty International UK, The rising death toll in the Mediterranean Sea (https://www.amnesty.org.uk/worlds-deadliest-sea-crossing-mediterranean).

▼8  E.U. Agrees to Naval Intervention on Migrant Smugglers, The New York Times, 18/05/2015 (http://www.nytimes.com/2015/05/19/world/europe/european-union-human-trafficking-military.html?referrer=&_r=0).

▼9  EUNAVFOR MED operation SOPHIA, European Union External Action (http://eeas.europa.eu/csdp/missions-and-operations/eunavfor-med/).

▼10 「【移民危機】マケドニア、移民に国境閉鎖 EUは不法移民の受け入れ停止へ」、BBC日本語版、2016年3月10日(www.bbc.com/japanese/35770469

▼11 Croatia building fence on border with Serbia, b92, 2016/06/30 (http://www.b92.net/eng/news/region.php?yyyy=2016&mm=06&dd=30&nav_id=98476).

▼12 「欧州委員会、一時的なEU域内国境管理を3カ月に限って延長することを勧告」、駐日欧州連合代表部、2016年10月25日(www.euinjapan.jp/resources/news-from-the-eu/20161025/101605/

▼13 「ベルギー、対仏国境で入国審査導入 移民80人追い返す」、AFP日本語版、2016年2月25日(www.afpbb.com/articles/-/3078186

▼14 「EUの欧州国境沿岸警備機関とは?」、EU MAG(駐日欧州連合代表部)、2016年2月16日(eumag.jp/question/f0216


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by p-dragon | 2016-11-08 10:35 | 声明・情報・考察  

欧州難民問題について: 「難民危機」以前における欧州の国境政策

目次へ)

1.「難民危機」以前における欧州の国境政策

※ 2016.11.8 タイトルを変更。

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Source: worldmaritimenews.com


 2010年代、難民は世界的規模で増えつづけている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の発表によれば、すでに2014年、世界の難民・国内避難民の数は、第二次大戦後で最大となる5950万人に達していた(▼1)。それでも難民の増加は収まらず、2015年の難民・避難民数は6530万人となっている(▼2)。この不幸な記録更新が、終わりの見えないシリア内戦をはじめとする、中東・北アフリカ情勢の不安定化にともなう事態であることはたしかだが、難民増大の要因の詳細な分析については措き、欧州への移民・難民が越境の途上や到着地でどのような困難に直面しているのかに注目したい。

 まずは統計的な情報をかんたんに見ておく。2015年における欧州への非正規の越境者数は、国際移住機関(IOM)の発表によれば12月に100万人を突破。そのうち大半を占めるのは海路(地中海経由)での上陸者(約97万人)で、残り(約3万人)はバルカン半島など陸路からの越境者。海路からの越境者の8割以上が、大半はトルコ経由でギリシャに渡る移民・難民であり(約82万人)、残りは北アフリカ経由でイタリア領内に上陸しているという(約15万人)。なおUNHCR Global Trends 2015では、例年には見られない「欧州難民危機」の特集が組まれているが、それによれば2015年は地中海からの上陸者だけで約102万人に達しており、海上での死者・行方不明者は判明しているだけで3771人にのぼる。越境者の出身国としては、IOM・UNHCRの共同声明によると、シリアからの出国者が約半数で、アフガニスタンからが20%、イラクからが7%となっている。他方、欧州連合(EU)自身の発表では、集計方法などの違いから、2015年の1月から11月までに「昨年1年間の5倍以上となる155万人」がEU域内に入ったとされている(▼3)(▼4)。

 このように数字は異なるものの、2015年に欧州へ越境した移民・難民が100万人を超えることは間違いない。2014年中には、EU機関は約27万8000人の「非正規越境者」を数えているので(▼5)、その少なくとも4倍の移民・難民が2015年中に欧州へ入境したことになる。越境中の死者・行方不明者も、年々増大しており、また海路での死者のほかにも、陸路での死者(すしずめにされたトラックのコンテナでの窒息死など)がいる。

 欧州に向かう移民・難民は、出身国における戦争や迫害や貧困・社会変動により苦しめられるだけでなく、欧州諸国やEU機関の厳しい国境管理という障壁のために、まさに命がけの越境を強いられる。そこで、ヨーロッパの国境政策の変化を概観しよう。

 第二次大戦後の高度経済成長期に、西欧諸国は大規模に移民労働者を受け入れたが、しかし1970年代に石油危機をきっかけとした長期不況に入ると、欧州諸国は移民の流入を制限した。他方で1970年代後半からは非ヨーロッパ諸地域からの難民も増えていくが、そうした人々にたいしても西欧諸国は敷居を高くしていった。

 1990年代からは、経済グローバル化が進むなかで、高い技能や専門能力をもつ移民、あるいは国内労働力が不足する特定の部門に従事する移民を、選択的に呼び込む動向が見られる。また、欧州の加盟国間で国境管理を撤廃し自由移動を促す、シェンゲン協定が発効する(1995年)。

 ただしこれらの政策転換は、加盟国が望ましくないと考える移民を排除するための手段の発展をともなっている。すなわち、ドイツの「安全な第三国」規定による難民申請の制限、EUのダブリン規則などの法的枠組や、身元確認技術の進化、越境者の監視・情報収集におけるEU機関・加盟国間での協力の発展などである。これら一連の手段をつうじた移民への統制強化は、2001年以降の「反テロリズム」の国際的動向により拍車がかかっていく。

 もう一つの特筆すべき国境政策の変化は、国境管理のいわば外部化、アウトソーシングである。つまり、領土内に入ってきた移民・難民には、多少なりとも人道的な配慮をしなければならない(少なくともそうしないと非難を受ける)から、あらかじめ移民の越境を防ごう、そのためにEU域外の近隣国に協力させよう、という発想である。この移民予防戦略の最前線に立つイタリアは、「1990年代末からチュニジアやエジプトなどの地中海南岸諸国と数々の二国間協定を締結」してきた。そのため2000年以降、アフリカ諸国からの移民・難民はリビアを経由するようになった。すると今度は、2004年にイタリアはリビアと秘密協定を結ぶことで、「偽の身分証明書の見破り方などの職業訓練活動、リビアから他の第三国への不法移民の送還活動の支援、海岸監視用の艦艇提供など財とサービスの譲渡、移民収容所の構築、地中海に面する1,770キロメートルの海岸を含むおよそ4,400キロメートルにも及ぶ国境の監視などの業務上・捜査上の協力など」を推し進めた(▼5)。

 しかしながら、こうした制限強化は、移民や難民が欧州にやってくる理由を解消するものではない。したがって、正規に越境する手段が狭められていくほど、移民・難民は非正規の越境手段に頼らざるをえなくなる。そうなると今度は、欧州諸国やEU機関が「不法越境者」への対策を訴えるようになり、欧州をふちどる見えない壁を、ますます高くする動きにつながっていく。こうした状況のなかで、2000年ごろから、移民にたいする「要塞ヨーロッパ」(もともとはナチス・ドイツが欧州占領地の防衛計画において用いた語)の建設を批判する声が高まっている。

 以上のとおり、欧州の2000年代までの国境政策をおおまかに見た。これに転機が訪れるのは2011年である。

次の記事へ)


【註】

▼1 日経2015年6月18日「世界の難民、昨年5950万人 第2次大戦後で最悪」 http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM18H0F_Y5A610C1EAF000/

▼2 CNN日本語版2016年6月21日「世界の難民や避難民、第2次大戦後最多に 6530万人」 http://www.cnn.co.jp/world/35084595.html

▼3 毎日2015年12月23日「欧州への難民・移民、100万人を突破」 http://mainichi.jp/articles/20151224/k00/00m/030/088000c

▼4 UNHCR Global Trends 2015, issued on 14/06/2016, pp. 32-36. http://www.unhcr.org/statistics/country/556725e69/unhcr-global-trends-2015.html

▼5 FRONTEX, Latest Trends at external borders of the EU, 02/02/2015. http://frontex.europa.eu/news/latest-trends-at-external-borders-of-the-eu-6Z3kpC

▼6 北川眞也「ヨーロッパ・地中海を揺れ動くポストコロニアルな境界 イタリア・ランペドゥーザ島における移民の「閉じ込め」の諸形態」16-17頁、北海道大学スラブ研究センター『境界研究』第3号、2012年(http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/61236



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by p-dragon | 2016-10-10 07:58 | 声明・情報・考察