カテゴリ:声明・情報・考察( 30 )

 

牛久入管でのベトナム人収容者の死亡事件にかんする抗議

以下は、3月25日に報道されたベトナム人収容者グエン(NGUYEN THE HUAN)さんの死亡事件を受けた、入管当局にたいする当会の抗議声明です。

あわせて 【転載】 牛久入管内からの声 ベトナム人収容者の死について もお読みください。

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​​​法務大臣 様
法務省入国管理局長 様
東日本入国管理センター所長 様

被収容者の死亡事件にかんする抗議申し入れ

 われわれSYI(収容者友人有志一同)は、入国管理局の被収容者の人権を擁護する団体として、本年3月24日に東日本入国管理センター(牛久収容所)内でベトナム国籍の被収容者が亡くなった件について、強く抗議します。

 当会が被収容者や他の支援団体からの情報で知ったところでは、本件の経緯は以下のとおりです。牛久収容所7Bブロックに収容されていたベトナム国籍のグエンさんは、3月24日夕方、居室に戻ったあと、19時頃には居室が静かになり、22時に灰皿を回収にきた職員が異常を察知して、15分後に居室で倒れているグエンさんを発見、AEDを実施。翌25日午前1時には救急隊が到着し応急処置をするも、すでに死亡していることが確認されました。彼の死因は「左椎骨動脈破裂によるくも膜下出血」だと後に判明しています(ロイター4月3日)。

 グエンさんは牛久への移送(3月10日頃)後、当初から体(とくに背中、首、胸)の強い痛みを訴えていましたが、職員は対応を拒絶し、彼を単独房に移すだけで放置しました。22日は同ブロックの被収容者までもが彼を医者に見せるよう要求しましたが、収容所内の医師は痛み止めと湿布を出すだけ。食事すら満足にとれない状態だったのに、おかゆを出してほしいという彼の願いすら職員は聞き入れませんでした。

 以上の経緯から分かるのは、グエンさんの明らかな容態悪化を当局が無視しつづけた結果、彼の尊い命が失われたということです。彼が収容されていなければ、または、もっと早く適切な医療機関に移送されていれば、おそらく命までは失わずに済んだでしょう。ところが東日本入管センター所長(北村晃彦氏)は26日、取材にたいして「現時点で処遇に問題はなかったと考えている」と回答しています。ビザのない外国人の命は粗末に扱っても構わないと考えているのでしょうか。そのような組織が税金で運営される公的機関であるのは、まったく許しがたいことであり、この国のありかたにかかわる問題です。

 したがって、わたしたちは以下を法務省入国管理局に要求します。

1.グエンさん死亡の経緯について調査し、公表すること。

2.牛久収容所の現センター長、北村晃彦氏をはじめ、グエンさんの訴えを無視したことに責任のある職員を処罰すること。

3.入管収容施設の医療環境を改善し、また外部診療の手続を柔軟化すること。

4.ビザのない外国籍者の収容をやめること。少なくとも、収容に明確な期限を設け、また期限内でも健康状態の悪化する被収容者はただちに解放すること。

2017年4月5日
SYI(収容者友人有志一同)

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by p-dragon | 2017-04-06 10:30 | 声明・情報・考察  

【速報】入管収容のベトナム人死亡 東日本センター

報道によれば、また入管収容施設で尊い人命が失われてしまいました。
事実関係を確認、調査します。

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入管収容のベトナム人死亡 東日本センター
産経ニュース 2017.3.25
http://www.sankei.com/affairs/news/170325/afr1703250031-n1.html

 東日本入国管理センター(茨城県牛久市)は25日、収容中の40代のベトナム人男性が意識不明となり、救急搬送先の病院で死亡したと発表した。司法解剖して死因を調べる。
 同センターによると、同日午前1時ごろ、巡回中の職員が、施設内の部屋に1人で寝ていた男性が動かないことに気付いた。声を掛けたが応じず意識が無かったため、119番通報した。同日午前2時20分ごろ、死亡が確認されたという。

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by p-dragon | 2017-03-26 12:26 | 声明・情報・考察  

難民を脅威と見なす難民研究者 墓田桂『難民問題』の批判的検討(1)

難民を脅威と見なす難民研究者
――墓田桂『難民問題』の批判的検討(1)


目次へ)

墓田は難民が受入国を脅かすと主張している。しかしそれは中立的、客観的な調査をつうじた結論ではなく、人の移動それ自体が国家への侵害だという先入観から、現実の一部だけを切り取って、不当に誇張することにより支えられた意見である。このような意見は、結局のところ極右の移民排斥論を補強するものだ。それは道徳的に問題であるだけでなく、難民問題の根本的な解決にも決してならない。


 墓田の議論の特徴は、難民政策において国家が認識すべきとされる「善意の限界」を強調する点にある。「社会の安寧や限られた財源といった問題を考えるとき、国民が示せる善意には限界がある」(223頁)。たしかに難民保護の意欲と能力とは別であり、そして受入国の財政能力は無限ではないだろう。それだけでなく、無差別攻撃や人身取引などに関与する越境者や、生活習慣や規範をめぐる移住者と市民との摩擦といった、対処すべき課題が生じるのも事実だ。しかし、次の点には注意しなければならない。受入国がこうむる負担を、越境者の保護に付随する課題と考えるのか、それとも、越境者によってもたらされる災難と見なすのか。これらは必ずしも同じことではない。そして墓田にとっては、人の移動それ自体が国家にたいする一種の侵害行為であるようだ。彼いわく、現代は「越境する人が安全保障上の脅威となりうる時代である」(230頁)。

 なぜ「越境する人」を墓田は危険視するのか。彼が挙げるのは「混合移動」の問題、つまり「難民」と「移民」が混ざっていることである。もっとも彼は、難民が移住先での生活条件を考慮して目的地を選んではいけない(そうする者はニセ難民だ)と言っているわけではなく、「同一人物が難民性と移民性を併せ持つ」ことを認めている。だが彼は、多種多様な越境者のなかに「シリア人になりすます」者や「戦争犯罪やテロとの接点をもつ非正規移動者」が紛れ込むことを問題視する。彼は「有象無象」という言葉まで使って、罪のない越境者と危険な越境者とを区別できないことを強調している(90-92頁)。しかしながら、難民ではない者として、移民と「戦争犯罪やテロ」の関係者とを同列に扱うことは不当ではないか。「戦争犯罪やテロ」という名目において、越境者全体を一律に危険視することが許されていいのだろうか。

 だが実のところ「戦争犯罪やテロ」は主張な問題ではない。墓田にはどんなことでも、難民の群れが脅威であるという印象の材料にしかならないようだ。彼は「移動者が残したペットボトルや丸めた紙、毛布やコート」の散乱を挙げ、難民の通過地となった街や村が「深刻」な「喧噪や荒廃」に見舞われていると嘆く(106-107頁)。「荒廃」とは、まるで難民が畑を荒らすイナゴの大群のようだとでも言わんばかりだ。住み家を求めてさまよう人々には、指定されたゴミ捨て場もないということくらい想像がつかないのだろうか。帰る場所のない人たちに、ゴミの持ち帰りのマナーを説教すべきというのか。まったくもって良識的で立派な難民研究者である。

 それだけではない。墓田にとっては、難民を保護することは社会的公正に反することでもあるらしい。彼は2016年5月にギリシャを視察したようだが、その報告は、彼の学者としての能力とセンスを疑わせる記述に満ちている。いわく、アテネ中心部の高級住宅地だった地区は、いまや「街は荒廃し、今では南アジアの雰囲気の漂う移民街」になっているとのことだ(109頁)。ここでも彼は、移民・難民が「荒廃」の原因だと決めつけているが、土地価格の低下と欧州危機による経済停滞との関連性については思い至らなかったのだろうか。

 次のようなくだりもある。非正規上陸者の収容施設がある港では、別のところに「ギリシャ人の路上生活者」もいたが「難民支援に携わるNGOからは見放されたようだった」と感想を記している。すぐさま彼は「むろん非正規移動者はこれを理由に責められるべきではない」とつけ加えてもいる(110頁)。だがどんな言い訳をつけても、福祉の不足と難民保護とを結びつける言論は移民排斥論を助長するものでしかない。外国人排斥の共鳴者のなかに国の福祉削減に不満をもつ市民もいるということは、状況分析としては正しいだろう。だがそうだからといって、あたかも難民保護のせいで福祉がおろそかにされているかのように言うことはできない。福祉削減の要因は、市場の景気変動がもたらす圧力であり、市場競争を促そうとする政策転換である。雇用という点にかんしても、現在の先進諸国は国内に不足している労働力(いわゆる高度人材や、逆に市民に避けられがちな労働部門)を選別的に導入しているので、その道徳的な当否は別として、国内労働者と移民の競合という主張は正しくない。こうした点を無視するかぎり、移民や難民が福祉(あるいは雇用)を市民から奪うという排外主義者の常套句を補強することにしかならない。

 これまでの筆者の記事では、どれだけ移民や難民が安全を脅かされているか、それも出身国ではなく欧州の排除的な国境政策によっても脅かされているかを説明してきた。だがそのことを墓田は一切問題にしない。それどころか、軍事同盟であるNATOが「密航対策」の名目で地中海をわたる難民の監視・取締に適用されるという2016年2月の決定を、妥当な施策として紹介している(153-154頁)。

 要するに、墓田はすべてにおいて、難民は受入国にとって災難であり脅威であるという先入観に立ってものを見ており、この先入観に収まらない現実を切り捨てている。だからこそ彼はためらうことなく、難民は安全保障上の脅威だと断言できるのである。「国家の安全保障」、市民にとっての「人間の安全保障」、「経済の安全保障」、「環境の安全保障」など、受入国のあらゆる種類の安全を難民が脅かすと言うのである(133-134頁)。さらには「排斥」や「拒絶」は一概に不道徳な実践ではなく、入学試験で不合格者を排除するように「優れて人間的な営為」でもあると、問題を抽象化して開き直ってすらみせている(147頁)。学者風の専門用語がそう見えにくくさせているかもしれないが、墓田の議論は徹底して、移民排斥論を補強するものでしかない。


【補足】

 他方で、外国人により市民が傷つけられる事件が実際に発生することについては、以前の連載のなかで取り上げるつもりだったが、まだ触れていなかった。たとえその種の事件が実際に起きたとしても、移民や難民を一括りに脅威と見なすことは許容できない。これについて指摘すべき点は二つある。

 第一に、とくにいわゆるテロ事件(無差別攻撃)について言えることだが、それをまったくの外部から舞い込んできた災難として捉えることの不正確さ。2015年から2016年にかけて、フランス、ドイツ、ベルギーで無差別攻撃が起きたが、それらは2016年12月のベルリンでのトラック攻撃を除いて、欧州出身者が単独でか、グループの中心となって実行した事件だった。いわゆるホームグロウン・テロである。これはテロの要因が欧州内部にもあることを示している。そのことを深く考えずに、新規入国者を一概に危険視することは、まず状況認識として誤っている。

 またそもそも、欧州への攻撃を過激主義者が扇動するのも、中東やアフリカにたいする欧米諸国の干渉や戦争(過去のではなく、現在も継続中の)が理由であって、まったくいわれのない暴力ではない。過激主義者の行為がどれだけ残虐であるとしても、というより残虐であるほどに、グローバル化の中心にいる集団と周辺に追いやられている集団との力の不均衡を、象徴的に埋め合わせようとする、それは絶望的な復讐劇なのである。グローバルな不均衡と不平等の真の解決にむけた国際的な取り組みがはじまらないかぎり、人をテロリズムに共感させる回路を断つことはできない。テロリストにいくら恐怖と憎しみを募らせても、問題は解決しないのである。

 第二に、特定の事件を全体としての移民・難民に結びつけることの問題。いわゆるテロ事件の他にも、ドイツやスウェーデンでは、北アフリカ出身者の集団による女性への暴行・嫌がらせの事件や、難民申請者による強かんや殺人などが起きている。こうした事件は移民排斥の風潮をますます煽った。これについてまず言うべきは、犯罪を法的に裁かねばならないからといって、特定の出身地や人種などを犯罪に結びつけることは正当化できないということだ。だが今日では、排斥論者はあからさまな人種的偏見よりも、政府が外国人から市民を守れなかったという失態を強調するだろう(墓田もこのスタンスだ)。この論点には、確信犯的な人種差別論者でない人にも受け入れられやすい。

 たしかに結果論として、こうした罪を犯した人々が入国していなければ、事件は起きなかったのだろう。だがそうしなかったのが問題だとしても、誰が一般犯罪を犯すかを入国前に判別することなどできないのだから、外国人の犯罪が嫌なら、国境を完全にシャットアウトするしかない。だが国や政府の責任については別の考え方もある。新たな移住者とのあいだに、同じ社会にくらす隣人としての連帯意識を少しでも共有することができていれば、やはりこうした事件は生じなかったかもしれない。ところが、現在の欧州諸国が実際にとっている政策は、それとは正反対である。新来の移住者どころか、古くからの移民やその子孫(国によっては、移民ではなく市民である人々)すら、社会の異物として扱われがちである。この問題については、次節で詳しく触れる。

(次の記事へ)

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by p-dragon | 2017-03-22 18:14 | 声明・情報・考察  

墓田桂『難民問題』の批判的検討 (はじめに・目次)

墓田桂『難民問題』の批判的検討

柏崎正憲


《目次》
はじめに
1.難民を脅威と見なす難民研究者


はじめに

 欧州難民問題にかんする解説の続きとして、ヨーロッパ社会の移民排斥の動向について書くつもりでいたが、そのかわりに、昨年夏に公刊された墓田桂『難民問題』(中央公論新社、2016年9月)を批判的に検討したい。墓田は国内避難民の研究者で、仏のナンシー第二大学で公法学の博士号をとり、現在は成蹊大学教授。そのような人物が昨今の難民問題を解説するのは適任に見える。だがその内容は、率直に言って「この人物に難民研究者として語る資格があるのか」と疑いたくなるほど酷いものだった。難民問題には理想主義ではなく現実主義で対処すべきだと、墓田は主張している。現実主義というのは、受入国が自国内での難民保護を制限すべきということを意味する。難民条約からの脱退すら、彼は一つの選択肢として提唱している(230頁)。

 むしろ墓田こそが、ある種の現実を軽視あるいは無視しているのではないか。彼が軽視している現実とは、移民や難民が「国益」の手段ではなく、権利と尊厳と血のかよった身体をもつ人格であるということだ。そして彼がまったく無視している現実とは、近年の「難民危機」に先立って振るわれてきた、世界の「南」に属する人々への直接的な暴力や間接的な圧力であり、しかもそうした暴力・圧力の全てではないにせよ大きな部分が、「北」に属する豊かな国々から生じているということに他ならない。墓田の「現実主義」は、これらの現実を考慮しないという非現実的(あるいは反現実的)な態度を決め込むことでしか成立しえないものだと言える。

 とはいえ、墓田の著作を取り上げることには、それなりの利点もある。彼の著作は、現在はびこっている移民・難民への恐怖、警戒、敵意を、極右や排外主義とは異なる語り口で、ある意味では巧みに表現しているからだ。彼の主張は、移民が国益に貢献するという論法では覆せないだろうし、難民擁護論にありがちな抽象的な人道主義だけで対抗することも難しいだろう。越境者を「危険」や「脅威」に結びつける言説に抗うには、移民や難民の主体的行為としての越境を、権利として擁護しなければならないだろう。

次の記事へ)

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by p-dragon | 2017-03-22 18:07 | 声明・情報・考察  

タイなどへのチャーター機強制送還

21日、入管局がチャーター機による一斉強制送還をおこないました。

先日のパネル展でも指摘しましたが、在留資格がないとしても、長く滞在している外国人は社会の実質的メンバーです。非正規滞在ではなく、そうした人々を監禁、追放し、生活基盤から暴力的に引きはがすほうが、計り知れないほど罪深いことです。

どうかこれが当然の政策だと思わないでください。市民の税金により国家の名のもとで実行されている人権蹂躙を、許容しないでください。

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http://jp.reuters.com/article/idJP2017022101002069

入管、タイ人ら43人を強制送還
ロイター通信(日本語版) 2017年2月21日

 法務省入国管理局は21日、不法入国や不法残留のタイ人32人、ベトナム人10人、アフガニスタン人1人の計43人を20日に民間のチャーター機で強制送還したと発表した。2~61歳の男女で、訴訟中や難民申請中の人は含まれない。滞在期間は最長で25年9カ月だった。

 入管によると、チャーター機での一斉送還は強制退去が決まっても拒否している人が対象。2013年から実施しており、今回が6回目。昨年9月にはスリランカ人30人を強制送還した。


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by p-dragon | 2017-02-23 23:24 | 声明・情報・考察  

欧州難民問題について: 難民危機の治安問題化

目次へ)

2.難民危機の治安問題化

※ 2017.3.22 一部修正。

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Lampedusa Detention Center (Photo by UNHCR)


 2011年、チュニジアのベン・アリ政権やリビアのカダフィ政権が覆された(リビアの体制は、未熟な反体制派というよりも、それを支援すると称する欧米の大規模な軍事介入によって破壊されたのだが)。これらの欧州が「独裁」と非難する政権は、前記事で述べたとおり、イタリアとの協定をつうじて、国境管理におけるEUのパートナーとなり、地中海を「民主的」な欧州へと渡ろうとする人びとを、北アフリカ側で取り締まっていたのである。それゆえに2011年、これらの国で体制が転覆されると、地中海ルートの移民・難民が急増した。同年のうちに、イタリアの非正規滞在者数は5万6000人に到達、また地中海での死者も1000人以上を数えた(▼1)。

 地中海での死者については、2013年10月、イタリア・ランペドゥーサ島沖での二隻の難民船沈没(約400名死亡)や、2015年4月19日のリビア沖での事故(800名以上が死亡)が、とくに大きく報道されたが、それ以外にも難民船の沈没や船上での死亡はしばしば起こっている。Missing Migrants Project調べでは、2014年の地中海での死者数は3,184名、2015年は3,463名、そして2016年は10月末の時点ですでに4,220名となっている。なお地中海経由の移民・難民の総数は、2015年が約101万人にのぼったのにたいして、今年は約34万人と、前年比で約4割にまで減少している(▼2)。それにもかかわらず、死者数がすでに昨年をこえているということは、地中海における反移民政策がますます厳格・冷徹に展開されていることを窺わせる。

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イタリア・ランペドゥーザ島の位置(▼3)

 陸路としては、トルコからギリシャに入ったあと、バルカン半島諸国を通過するルートが活用されてきた。2015年夏に急増した難民の大半は、このルートから来ていると言われている。2015年6月、ギリシャの北に位置するマケドニアが非正規入国者にたいする制限を弛め、短期間の滞在・国内移動を合法化した。そのため、移民・難民がバルカン・ルートを、安全面のみならず費用面からも選びやすくなったのだと指摘されている(▼4)。陸路においても命の危険はある。とくに大きく報道されたのは、2015年8月オーストリアの高速道路で、ブローカーの手配したトラックの荷台にすし詰めにされた71人のシリア難民の死体が見つかった事件である(▼5)。また、欧州にたどり着く以前の国境越えにおいても危険はあちこちに転がっている。トルコ国境に埋まっている地雷、北アフリカの砂漠地帯などである。たとえば2014年9月、シリア・トルコ国境で地雷を踏んで片足を失った少年のことが報道されているが(▼6)、それも数ある同様の悲劇の一例にすぎない。

 越境の途上における死者が増えるにつれ、欧州難民問題は人道的危機として、欧州の政策決定者たちにも無視できなくなったことはたしかだ。しかしながら過去2年弱のあいだに、難民への対応は治安政策へと急速にすり替えられている。

 2013年10月のランペドゥーサ島沖での事故を受けてイタリアは、地中海を渡る人々の救助を目的とした、海軍による作戦「われらが海」を開始する。だが、それもあまり長くは続かない。2014年11月、経済的負担の大きさを理由にイタリアは同作戦を終了し、EUの対外国境管理協力機関FRONTEX主導による合同作戦「トリトン」に移行。この新作戦においては、もはや人命救助は主目的とされなかった。その主眼は「国境警備の強化」と「密航業者の取り締まり」に置かれており、それにともない、海域上の活動範囲も大きく狭めらたのである(▼7)。さらに2015年4月には、上述のリビア沖事故を受けて、EU海軍部隊の主導による「ソフィア」作戦へと移行したが、作戦の眼目はいぜんとして密航取締であり、人命救助を主目的としたものではない(▼8)。2016年6月、同作戦の延長が決定され、さらには追加タスクとして、リビア沿岸警備隊および海軍への訓練供与が盛り込まれた(▼9)。

 陸路での難民についても、先に述べた2015年夏の寛容な対応は短いあいだに放棄された。すでに2012年には、ギリシャが対トルコ国境にフェンスを設置していたが、2015年以降、多くのバルカン・中欧諸国が国境にフェンスを張り巡らせることになる。2016年3月までに、マケドニア、ブルガリア、スロヴェニア、ハンガリー、オーストリアが、下図のとおり、バルカン・ルートに面する国境に有刺鉄線やカミソリつきのフェンスを設置した(▼10)。さらに6月には、クロアチアも対セルビア国境にフェンスを建設している(▼11)。

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バルカン・ルート: 赤線はフェンス設置地帯(▼10)

 難民の目的地となっている西・北欧諸国でも、欧州域内での自由移動を定めたシェンゲン協定にたいする例外的な措置として、入国管理の復活が進んでいる。2015年9月から翌年1月までに、ドイツ、オーストリア、スウェーデン、ノルウェー、デンマークが入国検査を復活させた。これらの国の措置は一時的なものとしてEUレベルで承認されており、最近では10月に、措置を延長する勧告が欧州委員会から出されている(▼12)。フランスは2015年11月のパリ同時多発テロ後、部分的に入国検査を復活させ、さらには2016年7月のニースでのテロ事件後、全面的に入国管理を再開している。ベルギーでも3月にテロが起きているが、それに先立つ2月、難民阻止のため対仏国境の管理を復活させている(▼13)。

 それでも難民危機の治安問題化は、いまだ途上にあるようだ。2016年2月には、軍事同盟であるNATOを「密航対策」の名目で地中海をわたる難民の監視・取締に適用することが決定された。3月にはトルコとEUのあいだで協定が結ばれ、それにもとづき4月、トルコから欧州に渡った移民・難民のトルコへの送還がはじまった。10月には「欧州国境沿岸警備機関」(FRONTEXからの改組・機能拡張)が発足した。その設置法案は、パリ同時多発テロ後の2015年12月に提出されていた。駐日欧州連合代表部はFAQで、密航対策にくわえてテロ対策を理由に掲げ、「域内国境なきEU」を回復するための重要な施策として、この機関の設置を意義づけている(▼14)。こうして、難民のなかから「テロリスト」を未然に把捉するためと称しながら越境者への制限がますます強化されていく。


後続記事 墓田桂『難民問題』の批判的検討へ)


【註】

▼1 S. ロジエール「現在おきているのは構造的な「対移民戦争」である」、森千香子/エレン・ルバイ編『国境政策のパラドクス』勁草書房、2014年、35-36頁

▼2 Missing Migrants Project, Infographics: Mediterranean Update, published on 04/11/2016, p. 1 (https://missingmigrants.iom.int/infographics).

▼3 北川眞也「ヨーロッパ・地中海を揺れ動くポストコロニアルな境界」20頁(http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/61236

▼4 L. Sly, 8 reasons Europe's refugee crisis is happening now, The Washington Post, 2015/09/18 (https://www.washingtonpost.com/news/worldviews/wp/2015/09/18/8-reasons-why-europes-refugee-crisis-is-happening-now).

▼5 「トラックから71遺体、シリア人か ハンガリーで4人拘束」、AFP日本語版、2015年8月29日(www.afpbb.com/articles/-/3058662

▼6 「国境は越えた 未来は見えない トルコのシリア難民たち」、毎日新聞、2016年11月5日(mainichi.jp/articles/20161105/dde/012/030/004000c

▼7  Amnesty International UK, The rising death toll in the Mediterranean Sea (https://www.amnesty.org.uk/worlds-deadliest-sea-crossing-mediterranean).

▼8  E.U. Agrees to Naval Intervention on Migrant Smugglers, The New York Times, 18/05/2015 (http://www.nytimes.com/2015/05/19/world/europe/european-union-human-trafficking-military.html?referrer=&_r=0).

▼9  EUNAVFOR MED operation SOPHIA, European Union External Action (http://eeas.europa.eu/csdp/missions-and-operations/eunavfor-med/).

▼10 「【移民危機】マケドニア、移民に国境閉鎖 EUは不法移民の受け入れ停止へ」、BBC日本語版、2016年3月10日(www.bbc.com/japanese/35770469

▼11 Croatia building fence on border with Serbia, b92, 2016/06/30 (http://www.b92.net/eng/news/region.php?yyyy=2016&mm=06&dd=30&nav_id=98476).

▼12 「欧州委員会、一時的なEU域内国境管理を3カ月に限って延長することを勧告」、駐日欧州連合代表部、2016年10月25日(www.euinjapan.jp/resources/news-from-the-eu/20161025/101605/

▼13 「ベルギー、対仏国境で入国審査導入 移民80人追い返す」、AFP日本語版、2016年2月25日(www.afpbb.com/articles/-/3078186

▼14 「EUの欧州国境沿岸警備機関とは?」、EU MAG(駐日欧州連合代表部)、2016年2月16日(eumag.jp/question/f0216


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by p-dragon | 2016-11-08 10:35 | 声明・情報・考察  

欧州難民問題について: 「難民危機」以前における欧州の国境政策

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1.「難民危機」以前における欧州の国境政策

※ 2016.11.8 タイトルを変更。

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Source: worldmaritimenews.com


 2010年代、難民は世界的規模で増えつづけている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の発表によれば、すでに2014年、世界の難民・国内避難民の数は、第二次大戦後で最大となる5950万人に達していた(▼1)。それでも難民の増加は収まらず、2015年の難民・避難民数は6530万人となっている(▼2)。この不幸な記録更新が、終わりの見えないシリア内戦をはじめとする、中東・北アフリカ情勢の不安定化にともなう事態であることはたしかだが、難民増大の要因の詳細な分析については措き、欧州への移民・難民が越境の途上や到着地でどのような困難に直面しているのかに注目したい。

 まずは統計的な情報をかんたんに見ておく。2015年における欧州への非正規の越境者数は、国際移住機関(IOM)の発表によれば12月に100万人を突破。そのうち大半を占めるのは海路(地中海経由)での上陸者(約97万人)で、残り(約3万人)はバルカン半島など陸路からの越境者。海路からの越境者の8割以上が、大半はトルコ経由でギリシャに渡る移民・難民であり(約82万人)、残りは北アフリカ経由でイタリア領内に上陸しているという(約15万人)。なおUNHCR Global Trends 2015では、例年には見られない「欧州難民危機」の特集が組まれているが、それによれば2015年は地中海からの上陸者だけで約102万人に達しており、海上での死者・行方不明者は判明しているだけで3771人にのぼる。越境者の出身国としては、IOM・UNHCRの共同声明によると、シリアからの出国者が約半数で、アフガニスタンからが20%、イラクからが7%となっている。他方、欧州連合(EU)自身の発表では、集計方法などの違いから、2015年の1月から11月までに「昨年1年間の5倍以上となる155万人」がEU域内に入ったとされている(▼3)(▼4)。

 このように数字は異なるものの、2015年に欧州へ越境した移民・難民が100万人を超えることは間違いない。2014年中には、EU機関は約27万8000人の「非正規越境者」を数えているので(▼5)、その少なくとも4倍の移民・難民が2015年中に欧州へ入境したことになる。越境中の死者・行方不明者も、年々増大しており、また海路での死者のほかにも、陸路での死者(すしずめにされたトラックのコンテナでの窒息死など)がいる。

 欧州に向かう移民・難民は、出身国における戦争や迫害や貧困・社会変動により苦しめられるだけでなく、欧州諸国やEU機関の厳しい国境管理という障壁のために、まさに命がけの越境を強いられる。そこで、ヨーロッパの国境政策の変化を概観しよう。

 第二次大戦後の高度経済成長期に、西欧諸国は大規模に移民労働者を受け入れたが、しかし1970年代に石油危機をきっかけとした長期不況に入ると、欧州諸国は移民の流入を制限した。他方で1970年代後半からは非ヨーロッパ諸地域からの難民も増えていくが、そうした人々にたいしても西欧諸国は敷居を高くしていった。

 1990年代からは、経済グローバル化が進むなかで、高い技能や専門能力をもつ移民、あるいは国内労働力が不足する特定の部門に従事する移民を、選択的に呼び込む動向が見られる。また、欧州の加盟国間で国境管理を撤廃し自由移動を促す、シェンゲン協定が発効する(1995年)。

 ただしこれらの政策転換は、加盟国が望ましくないと考える移民を排除するための手段の発展をともなっている。すなわち、ドイツの「安全な第三国」規定による難民申請の制限、EUのダブリン規則などの法的枠組や、身元確認技術の進化、越境者の監視・情報収集におけるEU機関・加盟国間での協力の発展などである。これら一連の手段をつうじた移民への統制強化は、2001年以降の「反テロリズム」の国際的動向により拍車がかかっていく。

 もう一つの特筆すべき国境政策の変化は、国境管理のいわば外部化、アウトソーシングである。つまり、領土内に入ってきた移民・難民には、多少なりとも人道的な配慮をしなければならない(少なくともそうしないと非難を受ける)から、あらかじめ移民の越境を防ごう、そのためにEU域外の近隣国に協力させよう、という発想である。この移民予防戦略の最前線に立つイタリアは、「1990年代末からチュニジアやエジプトなどの地中海南岸諸国と数々の二国間協定を締結」してきた。そのため2000年以降、アフリカ諸国からの移民・難民はリビアを経由するようになった。すると今度は、2004年にイタリアはリビアと秘密協定を結ぶことで、「偽の身分証明書の見破り方などの職業訓練活動、リビアから他の第三国への不法移民の送還活動の支援、海岸監視用の艦艇提供など財とサービスの譲渡、移民収容所の構築、地中海に面する1,770キロメートルの海岸を含むおよそ4,400キロメートルにも及ぶ国境の監視などの業務上・捜査上の協力など」を推し進めた(▼5)。

 しかしながら、こうした制限強化は、移民や難民が欧州にやってくる理由を解消するものではない。したがって、正規に越境する手段が狭められていくほど、移民・難民は非正規の越境手段に頼らざるをえなくなる。そうなると今度は、欧州諸国やEU機関が「不法越境者」への対策を訴えるようになり、欧州をふちどる見えない壁を、ますます高くする動きにつながっていく。こうした状況のなかで、2000年ごろから、移民にたいする「要塞ヨーロッパ」(もともとはナチス・ドイツが欧州占領地の防衛計画において用いた語)の建設を批判する声が高まっている。

 以上のとおり、欧州の2000年代までの国境政策をおおまかに見た。これに転機が訪れるのは2011年である。

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【註】

▼1 日経2015年6月18日「世界の難民、昨年5950万人 第2次大戦後で最悪」 http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM18H0F_Y5A610C1EAF000/

▼2 CNN日本語版2016年6月21日「世界の難民や避難民、第2次大戦後最多に 6530万人」 http://www.cnn.co.jp/world/35084595.html

▼3 毎日2015年12月23日「欧州への難民・移民、100万人を突破」 http://mainichi.jp/articles/20151224/k00/00m/030/088000c

▼4 UNHCR Global Trends 2015, issued on 14/06/2016, pp. 32-36. http://www.unhcr.org/statistics/country/556725e69/unhcr-global-trends-2015.html

▼5 FRONTEX, Latest Trends at external borders of the EU, 02/02/2015. http://frontex.europa.eu/news/latest-trends-at-external-borders-of-the-eu-6Z3kpC

▼6 北川眞也「ヨーロッパ・地中海を揺れ動くポストコロニアルな境界 イタリア・ランペドゥーザ島における移民の「閉じ込め」の諸形態」16-17頁、北海道大学スラブ研究センター『境界研究』第3号、2012年(http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/61236



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by p-dragon | 2016-10-10 07:58 | 声明・情報・考察  

欧州難民問題について: はじめに (目次)

欧州難民問題について

柏崎正憲(SYI)

《目次》
はじめに
1.「難民危機」以前における欧州の国境政策
2.難民危機の治安問題化
後続記事 墓田桂『難民問題』の批判的検討


はじめに

 当会は、日本の入国・在留管理政策が外国人の権利を系統的に無視し、侵害するものであることを問題として訴えてきた。排外主義を過激な口調であおる市民団体は目立ちやすいが、しかし国の制度そのものが、一般市民には見えにくいとしても、きわめて排外的なのである。先日(9月22日)にも、チャーター便によるスリランカへの集団強制送還が行われたが、「27年9カ月」日本に居た人や「家族が日本国籍を持っている」人すら送還されたという(▼1)。こうした実質的に社会に定着している人々ですら、外国に生まれ、ビザがないというだけで容赦なく排除する国で、民間の「犯罪外国人を叩き出せ」という扇動だけを取り締まることが可能だろうか。

 その一方で、このことの裏返しかもしれないが、日本で外国人の人権問題にとりくむ団体や弁護士には、ヨーロッパにおける入国管理や難民受入の制度を理想視する傾向があるように見える。たしかに、収容施設の運用実態や、その改善の試み(独立の査察委員会によるチェック)といった点について欧州諸国と比べると、日本がどれくらいひどいのかに改めて気づかされる(▼2)。ところがその一方で、とくに1990年代以降、欧州諸国における入国管理や難民への制限は強化されてきた。実態にそくしていえば、欧州の移民・難民政策においては人道主義と排除とが共存ないし並行しているのであって、しかも排除の側がますます強くなっている。欧州に学ぶのであれば、そうした負の側面についても批判的に検証しなければならない。

 昨年の夏ごろ、ヨーロッパでは「難民危機」や「移民危機」という言葉がさかんに使われるなかで、難民歓迎の世論が高まった。ふだんは移民や難民の問題に関心が薄い日本でも、この時期には比較的大きなメディア・世論の反応が見られたように思われる。在日シリア難民への取材が増えたり、「シリア難民を受け入れよう」という声が高まったり、9月末の国連総会での安倍首相による難民問題と人口問題とを混同した演説にたいして批判が起きたり、といった具合だ。しかし結局のところ、昨年末にはヨーロッパの難民歓迎の世論は下火になり、日本でも難民への関心はすぐに冷めた。しかしながら、欧州難民問題はまったく解決していない。そこで、近年の(2015年からの、ではなく)欧州難民問題の推移を見ながら、そこにどんな問題があるのかを考えてみたい。

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【註】

▼1 強制送還スリランカ人30人 チャーター機で(毎日新聞2016年9月23日20時18分 http://mainichi.jp/articles/20160924/k00/00m/040/064000c
 法務省は23日、不法滞在などで退去強制令書が出ているにもかかわらず、送還を拒んでいたスリランカ人30人を民間チャーター機で強制送還したと発表した。チャーター機の利用は2013年から実施しており、昨年にバングラデシュ人22人を送還して以来5回目。
 法務省によると、強制送還されたのは24〜58歳の男女。最長滞在期間は27年9カ月だった。22日に羽田空港を出発し、既に送還は完了したという。家族が日本国籍を持っているケースもあった。送還にかかった費用は約3700万円だった。【鈴木一生】

▼2 たとえば以下を参照。
・入管問題調査会『入管収容施設 スウェーデン、オーストリア、連合王国、そして日本』現代人文社、2002年
・児玉晃一、宮内博史「英国に学ぶ入管収容のあり方」、日本弁護士連合会『自由と正義』2013年04号(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/kokusaishitsu/data/JS_No66.pdf
・新津久美子「入国者収容所等視察委員会制度 イギリス、およびフランスにおける制度運用の実際」、移民政策学会『移民政策研究』第4号(http://iminseisaku.org/top/journal.html#vol04



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by p-dragon | 2016-09-27 06:54 | 声明・情報・考察  

日本のマスコミの難民報道に関して

 昨年夏から秋にかけて、シリアなどからヨーロッパへの大規模な難民の流入が、人道的問題として関心を集めました。ところが、昨年末にヨーロッパでおきた難民によるとされる事件以後、日本での難民に関する論調も、以前のように偏見に満ちたものばかりになってしまったように思われます。特に「不法滞在者」「密入国者」「でかせぎ目的のニセ難民」といった用語がよく見られるようになりました。しかし「ブローカーを使って密入国をしてくる怪しげな外国人」といったイメージは、メディアで一人歩きしているものでしかありません。誤ったイメージに捕われないよう、まずは難民がどのようにして出国をするかという基本的な部分から考えてみましょう。

 難民となって逃げなければならない。そんな時どうするか。まず、おさえておかなければならないのは、難民になる人はさまざまな社会階層の人であるという当たり前の事実です。お金もあって何度も海外旅行をしたことがある人や、大学を出ていて外国語が分かる人だけが、難民になるわけではありません。また、難民とならざるを得ない状況では正常な出入国のルートをとりにくい、という事情もあります。あまりお金のない人や知識のない人が難民にならざるを得ない場合にあらわれるのが、出入国のブローカーです。マスコミではよく「ブローカーとぐるになって」とか「ブローカーから手口を教えられて」といった表現を目にします。まるで難民がブローカーと結託しているように見えますが、そもそも難民とブローカーはそんなに親密な関係ではありません。難民がブローカーに騙されて劣悪な環境で国境を越えようとして亡くなってしまう事件は、海外では頻繁にありますし、他国に行くつもりだったのに日本に連れてこられてしまった難民もいます。ブローカーは人道支援をしているわけではなく、あくまでお金が目的なのです。社会情勢などの悪化が原因で出国を急ぐ難民にとって、選ぶことのできる選択肢はあまりにも少ないのが現実です。

 日本にやってきたあとも難民は難民申請を行わなければなりません。その手続きは入管への書類提出などが含まれます。もちろん、申請の仕方について詳細なレクチャーはありません。自分の言語での用紙がない場合もあります。入管が「難民としての蓋然性が低い」と判断する場合、「申請内容の不整合や書類の不備」などを理由として挙げますし、マスコミにでてくる「専門家」がそう話すこともあります。しかし、入管に提出する書類は日本人でさえ、戸惑うような詳細な記述が求められます。「完璧」に記入していなければ「申請内容の不整合や書類の不備」をいくらでもあげつらうことができるのです。たとえて言うならば、スマートフォンの契約について、事前の説明もなしに詳細に記入しろと紙切れを渡され完璧な記入を求められるようなものです。こうした状態で提出された申請書類をもとに難民の審査が行われ、通訳の質が悪かったり、自分の母語での通訳がつかない場合もあるような不十分な状態で面談が行われたりします。そこでも「事前の供述について本人が理解していない」などの問題が発生すると、全て難民のせいにされ「ニセ難民」呼ばわりされることになります。つまり、日本の難民認定率の低さは、「ニセ難民が多いから」ではなく、日本政府が審査手続において、異常に高いハードルを難民申請者に課しているからだと言えます。いわば一部のインテリとお金持ちしか審査を通り抜けられないような審査が行われることは、難民条約の精神に明らかに反しています。

 こうした状態で、難民認定されない人びとを「ニセ難民」扱いするような言説がまかりとおる原因としては、やはりマスメディアの伝え方を問題にせざるを得ません。特に問題なのは、入管の言い分を一方的に垂れ流すメディア(読売新聞など)や「専門家」と称する人びとです。たとえば、元「難民を助ける会」副理事長の吹浦忠正さんを取り上げましょう。その肩書きにもかかわらず、吹浦氏の発言は、難民を助ける立場から問題に言及する人とは思えないものばかりです。

 吹浦氏は「日本の難民受け入れに関する誤解」(http://blogos.com/article/124851)と称する記事で、日本が難民をいかに受け入れてきたかを力説していますが、主に挙げているのは、諸外国の圧力により政府が仕方なく受け入れたインドシナ難民と、中国残留邦人です。もちろん、中国残留邦人は難民ではありません。日本の中国侵略と敗戦の結果、中国に置き去りにされた人々であり、日本への帰国の後もいろいろな困難に直面しています。それにもかかわらず、吹浦氏は中国残留邦人の帰国をあたかも日本の難民政策の成果のように語ってしまっています。そのうえで彼は、日本の難民の「実態」について語っていますが、その内容は入国管理局の言い分を垂れ流しにしているようなものです。たとえば「(難民の出身)国ごとに申し立て理由がパターン化している」ことを、あたかもブローカーを利用した不正の証拠のように挙げていますが、同じ環境から避難している人たちが類似の申請理由を挙げるのは当たり前だろう、としかいいようがありません。このように吹浦氏は、ブローカーによる不正という自分自身の思い込みを、すべての説明の根拠にしてしまっているのです。

 繰り返しますが、難民は難民であるからこそ、しばしば非合法なブローカーの斡旋や助言さえも受けねばならない状況のなかで、どうにか逃げてくるのです。そのような境遇にある人々を「ニセ難民」というレッテル貼りにより排除することは、難民の迫害に加担すること、殴られ弱った人をさらに殴ることです。入管や吹浦氏の考え方を受け入れているかぎり、日本は「難民受入」の名のもとで難民に暴力を振るい続けているのだということを、私たちは認識するべきでしょう。
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by p-dragon | 2016-03-08 12:37 | 声明・情報・考察  

【パンフレット】 日本も難民を受け入れよう!

私たちのパンフレットの内容をブログにも掲載します。ぜひ読んでください!
なお、パンフレット末尾の声明は、すでに以下に掲載しました。
【声明】 深まる難民危機──日本は何をするべきか

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【パンフレット】 日本も難民を受け入れよう!

作成日: 2015年10月11日

PDFで読む
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日本にも難民は来ているの?

はい。2008年以降、日本に来る難民申請者の数は年間1000人を超えています。しかし、正式に難民認定された人の数はとても少ないのです。2014年は、難民申請者5000人に対して、わずか11人しか認定されませんでした(たった0.2%)! つまり、日本はほとんど難民を受け入れていません。

こんなことが起こる原因は、難民申請を審査する機関が、日本では法務省入国管理局であることです。入管の業務は「日本にとって好ましくない外国人」を選別・排除することであり、常に外国人に対して疑いの目を向けています。そんな入管が、難民審査を同時に担当しているという矛盾があります。

また入管では、難民申請者なども含む、正規の滞在資格がない人に対する無期限の拘留や、職員による暴行など、さまざまな人権侵害と自由の剥奪が常態化しています。人権擁護の観点から、入管行政を変えていく必要があります。

日本は1981年に、「難民条約」に加入しています。「かわいそうな人びとを助ける」ためではなく、国際的な約束を結んだ責任・義務として、日本がきちんと難民を受け入れることを、私たちは求めます。


危険な海を渡る難民たち

いま、数十万の難民が中東やアフリカから欧州に流入しています。2011年に北アフリカ諸国の政権が崩壊した時期から、地中海をギリシャやイタリアに向けて渡る難民が増加しました。

このため、地中海でボートごと沈み、命を失う難民が年々増えています。ボートを手配するブローカーは、粗末なボートに難民をすし詰めにして危険な航海をさせています。

その一方、EU諸国が難民の流入を防ぐために、海上での取り締まりを強化しているため、難民たちの航海はますます危険なものになっています。

また、EUでは加盟国内で最初に難民が上陸した国(たとえばギリシャ)に受入の責任をすべて押しつける体制になっており、これもまた難民受入を拒否する方向にはたらいています。今年になり、EUが難民対策を見直す動きを見せていますが、受入拡大に向けた改革の動きはまだまだ進んでいません。

いま難民は、出身国で迫害されるだけでなく、避難先でもしばしば「侵入者」や「取り締まりの対象」として扱われ、危険な目に合わされています。

わたしたちはこのような難民に冷たい国際社会を、変えていかなければなりません。


国際社会の責任は?

難民は、戦争・紛争・社会の荒廃によって生み出されます。しかし、責任があるのは紛争の当事国だけでありません。

いま多くの難民が流出しているシリアの情勢は、欧米など諸外国政府からの干渉、中東諸国からの戦闘員や武器・資金の流入、紛争を煽るようなメディア報道などによって悪化してきました。

シリアでは、2011年はじめに市民がアサド政権の政治改革を求めて街頭に出ていました。シリア政府が力づくで弾圧する一方、反体制側でも武装勢力が台頭し、まもなく政府軍と反体制派(自由シリア軍)による、市民を巻き込んだ殺し合いの構図になってしまいました。

ところが欧米メディアでは「独裁政権・対・市民」や、「政府の一方的な虐殺」といった報道が、きちんとした検証もなしに飛び交いました。

さらに2012年以来、「イスラム国」やヌスラ戦線など、アルカイダ系の武装勢力が国外から参戦しています。彼らは湾岸アラブ諸国から資金提供を受けていると見られています。その一方、欧米諸国やトルコは、反体制派への武器提供を公式に始めました。

こうした、外部からの介入が、紛争を煽り、泥沼化させてきました。シリアに限らず、大国がより小さな国に武力で介入したり、言論であおったりすれば、平和も民主主義も遠のいてしまいます。ここに、今の難民危機の原因があるのではないでしょうか。
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「偽装難民」がいるから受け入れない?

日本ではなかなか難民受け入れが進まない背景に、マスメディアによる偏向した報道があります。たとえば、今年はじめに読売新聞で「偽装の難民申請が増えている」という報道キャンペーンがありました。入管はこうした申請があるために難民の基準を厳しくせざるをえないとしていますが、問題の根源はこの「偽装難民」問題にはありません。

日本は表向き「外国人単純労働者を受け入れない」としている国です。しかし実際には、街でも、工場でも、農村でも多くの外国人が働いています。その多くは「労働」ではなく「技能実習生」というビザで来ています。

この技能実習の制度では、労働基準法が適用されません。そのため、場合によっては時給300円となるような極端な低賃金や、休日をほとんど与えられない長時間労働、寮からの外出禁止などの人権侵害がまかり通っています。

こうした境遇にある人たちの一部が、少しでも人権が守られる環境で働くために、難民申請をしているというケースがあるようです。

このように、本来は難民の定義にあてはまらない人が難民申請を行っていたとしても、その原因は、人権を無視した技能実習制度にあります。
国が人権侵害の温床を作っておいて、その被害者が生き延びようとすれば、「偽装難民」として悪者扱いする、という構図です。

奴隷的な外国人労働の温床になってしまっている技能実習生制度は廃止しなければなりません。


日本の責任

「日本は平和で、人権が保障されている国」だと思っている人も多いと思います。しかし、世界で発生している難民を引き受けて、できるだけ多くの人の人権を保障するための「難民条約」に加入しているのに、全然難民を受け入れようとしていません。

また、よく言われる「平和国家」についても、事実に反しています。

シリア情勢が諸外国の介入で悪化してきたことは説明しましたが、日本もまた、外国に対する軍事力による介入を始めています。自衛隊は、イラク戦争ではアメリカ軍の指揮下で「後方支援」をおこない、ソマリアでも米軍などと協力して軍事行動をおこなっています。また日米安保条約により、米軍の他国への攻撃(朝鮮戦争やベトナム戦争など)を支援してきました。

また、日本政府は武器輸出も解禁し、パレスチナで不当に占領・入植を行うイスラエルなどに兵器を売って儲けようとしています。最近の安保法制の強行採決によって、日本はますますアメリカと密着し、より弱い国の人びとを武力で抑圧しようとしています。

日本は、世界有数の規模をもつ軍隊を「自衛隊」と呼んでごまかし、米軍駐留の社会的な負担を沖縄に押しつけてきました。建前と実態に、大きなへだたりがあるのです。

現実主義の名のもとに「普通の国家らしく軍を肯定しよう」とか、「自衛隊を平和の軍隊として活用しよう」という意見が聞かれます。しかし、難民問題の視点から見れば、今まで戦争や軍事介入こそがつねに難民を生み出してきました。

難民の受け入れを求めるのはもちろんですが、武力を使ったり、戦争を煽る、日本を含めた先進国の政策に反対することもまた、平和を尊重する人々の責任ではないでしょうか。
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by p-dragon | 2015-10-14 08:58 | 声明・情報・考察