欧州難民問題について: はじめに (目次)

欧州難民問題について

柏崎正憲(SYI)

《目次》
はじめに
1.「難民危機」以前における欧州の国境政策
2.難民危機の治安問題化
後続記事 墓田桂『難民問題』の批判的検討


はじめに

 当会は、日本の入国・在留管理政策が外国人の権利を系統的に無視し、侵害するものであることを問題として訴えてきた。排外主義を過激な口調であおる市民団体は目立ちやすいが、しかし国の制度そのものが、一般市民には見えにくいとしても、きわめて排外的なのである。先日(9月22日)にも、チャーター便によるスリランカへの集団強制送還が行われたが、「27年9カ月」日本に居た人や「家族が日本国籍を持っている」人すら送還されたという(▼1)。こうした実質的に社会に定着している人々ですら、外国に生まれ、ビザがないというだけで容赦なく排除する国で、民間の「犯罪外国人を叩き出せ」という扇動だけを取り締まることが可能だろうか。

 その一方で、このことの裏返しかもしれないが、日本で外国人の人権問題にとりくむ団体や弁護士には、ヨーロッパにおける入国管理や難民受入の制度を理想視する傾向があるように見える。たしかに、収容施設の運用実態や、その改善の試み(独立の査察委員会によるチェック)といった点について欧州諸国と比べると、日本がどれくらいひどいのかに改めて気づかされる(▼2)。ところがその一方で、とくに1990年代以降、欧州諸国における入国管理や難民への制限は強化されてきた。実態にそくしていえば、欧州の移民・難民政策においては人道主義と排除とが共存ないし並行しているのであって、しかも排除の側がますます強くなっている。欧州に学ぶのであれば、そうした負の側面についても批判的に検証しなければならない。

 昨年の夏ごろ、ヨーロッパでは「難民危機」や「移民危機」という言葉がさかんに使われるなかで、難民歓迎の世論が高まった。ふだんは移民や難民の問題に関心が薄い日本でも、この時期には比較的大きなメディア・世論の反応が見られたように思われる。在日シリア難民への取材が増えたり、「シリア難民を受け入れよう」という声が高まったり、9月末の国連総会での安倍首相による難民問題と人口問題とを混同した演説にたいして批判が起きたり、といった具合だ。しかし結局のところ、昨年末にはヨーロッパの難民歓迎の世論は下火になり、日本でも難民への関心はすぐに冷めた。しかしながら、欧州難民問題はまったく解決していない。そこで、近年の(2015年からの、ではなく)欧州難民問題の推移を見ながら、そこにどんな問題があるのかを考えてみたい。

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【註】

▼1 強制送還スリランカ人30人 チャーター機で(毎日新聞2016年9月23日20時18分 http://mainichi.jp/articles/20160924/k00/00m/040/064000c
 法務省は23日、不法滞在などで退去強制令書が出ているにもかかわらず、送還を拒んでいたスリランカ人30人を民間チャーター機で強制送還したと発表した。チャーター機の利用は2013年から実施しており、昨年にバングラデシュ人22人を送還して以来5回目。
 法務省によると、強制送還されたのは24〜58歳の男女。最長滞在期間は27年9カ月だった。22日に羽田空港を出発し、既に送還は完了したという。家族が日本国籍を持っているケースもあった。送還にかかった費用は約3700万円だった。【鈴木一生】

▼2 たとえば以下を参照。
・入管問題調査会『入管収容施設 スウェーデン、オーストリア、連合王国、そして日本』現代人文社、2002年
・児玉晃一、宮内博史「英国に学ぶ入管収容のあり方」、日本弁護士連合会『自由と正義』2013年04号(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/kokusaishitsu/data/JS_No66.pdf
・新津久美子「入国者収容所等視察委員会制度 イギリス、およびフランスにおける制度運用の実際」、移民政策学会『移民政策研究』第4号(http://iminseisaku.org/top/journal.html#vol04



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by p-dragon | 2016-09-27 06:54 | 声明・情報・考察  

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