日本のマスコミの難民報道に関して

 昨年夏から秋にかけて、シリアなどからヨーロッパへの大規模な難民の流入が、人道的問題として関心を集めました。ところが、昨年末にヨーロッパでおきた難民によるとされる事件以後、日本での難民に関する論調も、以前のように偏見に満ちたものばかりになってしまったように思われます。特に「不法滞在者」「密入国者」「でかせぎ目的のニセ難民」といった用語がよく見られるようになりました。しかし「ブローカーを使って密入国をしてくる怪しげな外国人」といったイメージは、メディアで一人歩きしているものでしかありません。誤ったイメージに捕われないよう、まずは難民がどのようにして出国をするかという基本的な部分から考えてみましょう。

 難民となって逃げなければならない。そんな時どうするか。まず、おさえておかなければならないのは、難民になる人はさまざまな社会階層の人であるという当たり前の事実です。お金もあって何度も海外旅行をしたことがある人や、大学を出ていて外国語が分かる人だけが、難民になるわけではありません。また、難民とならざるを得ない状況では正常な出入国のルートをとりにくい、という事情もあります。あまりお金のない人や知識のない人が難民にならざるを得ない場合にあらわれるのが、出入国のブローカーです。マスコミではよく「ブローカーとぐるになって」とか「ブローカーから手口を教えられて」といった表現を目にします。まるで難民がブローカーと結託しているように見えますが、そもそも難民とブローカーはそんなに親密な関係ではありません。難民がブローカーに騙されて劣悪な環境で国境を越えようとして亡くなってしまう事件は、海外では頻繁にありますし、他国に行くつもりだったのに日本に連れてこられてしまった難民もいます。ブローカーは人道支援をしているわけではなく、あくまでお金が目的なのです。社会情勢などの悪化が原因で出国を急ぐ難民にとって、選ぶことのできる選択肢はあまりにも少ないのが現実です。

 日本にやってきたあとも難民は難民申請を行わなければなりません。その手続きは入管への書類提出などが含まれます。もちろん、申請の仕方について詳細なレクチャーはありません。自分の言語での用紙がない場合もあります。入管が「難民としての蓋然性が低い」と判断する場合、「申請内容の不整合や書類の不備」などを理由として挙げますし、マスコミにでてくる「専門家」がそう話すこともあります。しかし、入管に提出する書類は日本人でさえ、戸惑うような詳細な記述が求められます。「完璧」に記入していなければ「申請内容の不整合や書類の不備」をいくらでもあげつらうことができるのです。たとえて言うならば、スマートフォンの契約について、事前の説明もなしに詳細に記入しろと紙切れを渡され完璧な記入を求められるようなものです。こうした状態で提出された申請書類をもとに難民の審査が行われ、通訳の質が悪かったり、自分の母語での通訳がつかない場合もあるような不十分な状態で面談が行われたりします。そこでも「事前の供述について本人が理解していない」などの問題が発生すると、全て難民のせいにされ「ニセ難民」呼ばわりされることになります。つまり、日本の難民認定率の低さは、「ニセ難民が多いから」ではなく、日本政府が審査手続において、異常に高いハードルを難民申請者に課しているからだと言えます。いわば一部のインテリとお金持ちしか審査を通り抜けられないような審査が行われることは、難民条約の精神に明らかに反しています。

 こうした状態で、難民認定されない人びとを「ニセ難民」扱いするような言説がまかりとおる原因としては、やはりマスメディアの伝え方を問題にせざるを得ません。特に問題なのは、入管の言い分を一方的に垂れ流すメディア(読売新聞など)や「専門家」と称する人びとです。たとえば、元「難民を助ける会」副理事長の吹浦忠正さんを取り上げましょう。その肩書きにもかかわらず、吹浦氏の発言は、難民を助ける立場から問題に言及する人とは思えないものばかりです。

 吹浦氏は「日本の難民受け入れに関する誤解」(http://blogos.com/article/124851)と称する記事で、日本が難民をいかに受け入れてきたかを力説していますが、主に挙げているのは、諸外国の圧力により政府が仕方なく受け入れたインドシナ難民と、中国残留邦人です。もちろん、中国残留邦人は難民ではありません。日本の中国侵略と敗戦の結果、中国に置き去りにされた人々であり、日本への帰国の後もいろいろな困難に直面しています。それにもかかわらず、吹浦氏は中国残留邦人の帰国をあたかも日本の難民政策の成果のように語ってしまっています。そのうえで彼は、日本の難民の「実態」について語っていますが、その内容は入国管理局の言い分を垂れ流しにしているようなものです。たとえば「(難民の出身)国ごとに申し立て理由がパターン化している」ことを、あたかもブローカーを利用した不正の証拠のように挙げていますが、同じ環境から避難している人たちが類似の申請理由を挙げるのは当たり前だろう、としかいいようがありません。このように吹浦氏は、ブローカーによる不正という自分自身の思い込みを、すべての説明の根拠にしてしまっているのです。

 繰り返しますが、難民は難民であるからこそ、しばしば非合法なブローカーの斡旋や助言さえも受けねばならない状況のなかで、どうにか逃げてくるのです。そのような境遇にある人々を「ニセ難民」というレッテル貼りにより排除することは、難民の迫害に加担すること、殴られ弱った人をさらに殴ることです。入管や吹浦氏の考え方を受け入れているかぎり、日本は「難民受入」の名のもとで難民に暴力を振るい続けているのだということを、私たちは認識するべきでしょう。
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by p-dragon | 2016-03-08 12:37 | 声明・情報・考察  

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